フジモリの脳内ラビリンス

〜a labyrinth in fujimori's brain〜

Fourty-eighth bookshelf
笠井潔・編『八ヶ岳・雪密室の謎』



「八ヶ岳 雪密室の謎」 解答

 フジモリは、山梨県の長坂町の出身です。小淵沢、清里など馴染みのある地名が出てきて、二重に物語を楽しむことができました。また、フジモリは泉郷で貸別荘の清掃のアルバイトをしたことがあります。そのため、泉郷の内情については多少の知識はあると自負しております。
 そういった知識を前提にこの「雪密室」の謎を推理してみます。

 まず、この「J−2」に鍵をかけた人物はマスターキーを持った人物だと推測できます。なぜなら、
 ・ドアは雪の重みや寒さで開かなかったのではなく、鍵がかかっていた。
 ・宿泊客用の鍵は一つしかなく、その鍵は室内のテーブルの上においてあった。
 という記述から推測できますし、
 ・近くには合鍵を作るような店がなく、しかも泉郷の鍵は特殊なので、合鍵を作ることは物理的に不可能。

 ということを、フジモリは知っています。(ちなみに、長坂町の駅近くに合鍵屋が1件だけありますが、地元の人しか知らないような場所にあります)

 ところで、作中に「マスターキーは職員が管理していて、厳重に管理されている」と言う記述があります。これは、半分事実で、半分誤りです。

 フジモリが貸別荘の清掃のアルバイトをしていたときは、数人で1グループになり、マスターキーを使って室内に入り、宿泊客が出た後の部屋を清掃し、ベッドメーキングをし、シーツや洗面用具などを新しいものに取り替えます。そのグループリーダーは泉郷の職員の人ですし、マスターキーはその職員の人が厳重に管理します。「マスターキーは職員の人が厳重に管理している」という記述は正しいですが、そのマスターキーは複数あるわけです。フロントのマスターキーにはアリバイがありますが、それ以外の鍵にはアリバイがありません。密室にした「鍵」は、フロントの職員以外の「職員」が持っている鍵によるものと推測されます。

 では、誰が持っていた鍵なのでしょうか?

 最初に入っていたときにはあったすき焼きセットが入っていたプラスチックケースがなくなっていたことからも、鍵をかけた人物は「ケータリング」の人であると推測されます。玄関先に置いてあるケースを回収したのですから、テーブルの上にあった鍵には気付きません。ケータリングで「J−2」を訪れた人物はプラスチックケースを運び出し、ドアが開錠されていることに気付き、親切心からマスターキーで施錠した。これが、雪密室のトリックです。

 しかし、ここまでは、p129で推理されています。当初の推理がほぼ核心をついていたわけですが、そこでいくつかの問題点が出ています。そこで、この推理の補強をしていきます。

 まず、「ケータリングが行われたのは日中だ」という記述です。

 フジモリが推測するに、日中に運び込まれたのは「しゃぶしゃぶセット」だったと思われます。作品内ではプラスチックケースを開けて中身を覗いたという記述はありません。したがって、この時点ではプラスチックケースの中には「しゃぶしゃぶセット」が入っていたはずです。ケータリングの人(おそらくアルバイトの人だと思われます。泉郷は住み込みバイトの人が多く、キャリアが浅い人が多いことは事実です)は日中、「しゃぶしゃぶセット」を運び入れ、「しゃぶしゃぶセット」を運び入れる予定だった貸別荘に「すき焼きセット」を入れてしまいました。そこで、「すき焼きセット」を運び入れたお客さんからクレームが来ます。ケータリングの人たちは慌てて「J−2」にあった「しゃぶしゃぶセット」を回収し、「すき焼きセット」を運び入れる。その際に、鍵をかけてしまったのでしょう。

 そうなると、布施氏の記述「坂の上からも下からもそれらしき車は来なかった」という記述に矛盾します。そこから、ケータリングの車は「D−12」の別送のある道に停めてあったという結論が導き出されます。フジモリが貸別荘の清掃バイトをしていたときも、少しでも最短距離をいくように道なき道を通っていました。おそらく「D−12」近辺の別荘で別のケータリングがあったのでしょう。「D−12」の方から道なき道を進むケータリングのアルバイトたち。

 しかし、ここで最後の関門が待ち構えています。
 なぜ、布施氏はこのケータリングの人たちを見逃したんでしょうか?
 記述の通り、駐車場に荷物を置き、布施氏はずっと駐車場で荷物番をしていたはずです。
 しかし、布施氏の手記は事実すべてを記していたわけではありません。
 布施氏が荷物番をしている間に、空白の時間があったのです。
 この日の布施氏の行動を追ってみると、国立を出発してから、渋滞に巻き込まれ、休憩もなしに泉郷に到着。フロントでは一服しようとした時に飯逢氏に話しかけられます。

 そう。
 布施氏は、
 国立を出てから、一度もトイレに行ってないのです!

 寒さの中、外で待たされているときに、布施氏は急に尿意に襲われます。しかし、別荘に入ってトイレに行くのでは本末転倒。布施氏は持ち前の義務感から「尿意の解消」と「荷物番」の二つを同時に行える方法を選択します。

 布施氏は荷物が視野に入り、なおかつ人目にはつきにくい場所を探し、そこで用を足したのです。雪の中で立ちションをした人ならわかると思いますが、こういう時には意外と手間取るものです。おまけに、人見られないかというスリル。用を足すのに、ある程度の時間を要したことは想像に難くありません。

 その「空白の時間」に、「D−12」方面からやってきたケータリングのアルバイトたち。昼間入れた「しゃぶしゃぶセット」を回収し、「すき焼きセット」を入れる。その際にドアが開いていたことに気付き、マスターキーで施錠する。そうして、再び「D−12」方面に登っていくわけです。
 立ちションの最中、荷物にしか集中していなかった布施氏はこの作業に気付いていませんでした。

 再び駐車場に立ち、荷物番をする。
 そうやって、「雪密室」は完成したのです。
 基本的に、この本の記述に誤りはありません。
 しかし、そこには、ミステリ作品顔負けの叙述トリックに満ちていたわけです。

 ちなみに、「J−2」がなくなっていた件ですが、泉郷で働いている知り合いに聞いたところ、数年前に泉郷は大幅な改装をしたとのことです。これも、言われてみれば「なんだ」という謎でしたね。


<補足>

 森博嗣のミステリィで良くあるパターン、「凝っているようで一番シンプルな解答」をイメージしました。森ミステリィは最初の仮設を一度否定し、実はそれが一番正解に近かった、という手法がよくとられます。 同じように、最初の仮説をアレンジしたものがこの解答です。
 また、当事者による手記であることから、誤認、勘違いが原因の「叙述トリック」もあるかと思います。
 その辺を意識して、非常に当たり前かつ普通な解答となりました。
 2日間の推理ではこれが限界です・・・。


<追記>

フジモリの解答が「第1回優秀「雪密室」賞」を受賞いたしました。
くわしくはこちら。
http://www.harashobo.co.jp/mystery/yuki.htm
最優秀作品賞は、従業員の手記という形でとられていました。
さすがに上手いです。
2日で考えた解答が賞を受賞しちゃっていいのかな?という罪悪感も少し。
まあ、受賞云々よりも、笠井潔氏にフジモリの文を読んでいただいたことが嬉しいです。
いや、本名ばれちゃいましたが(笑)。



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