| フジモリの脳内ラビリンス
〜a labyrinth in fujimori's brain〜 Fourty-fourth bookshelf 加納朋子『いちばん初めにあった海』 |
フジモリ 「今回は加納朋子の「いちばん初めにあった海」をとりあげます」 御影 「久しぶりの加納朋子やな」 フジモリ 「前回の感想で言った通り、ちょっと間隔をあけて読んでみたんだ」 御影 「にしても、めっちゃきれいな表紙やな」 フジモリ 「ブックカバーをつけるのがもったいないぐらいだね。装丁という面では、これまで読んだ加納作品のなかではピカイチだね」 御影 「ほぉ。で、内容なんやけど、今作は2編の中篇で構成されとぉな。中篇集みたいなもんなん?」 フジモリ 「いや。それぞれ主人公や登場人物、ストーリィは異なっている。しかし、この二つの中篇、互いに有機的なつながりを持っているんだ。というわけで、あらすじを紹介しよう。 表題作「いちばん初めにあった海」。 周囲の騒音に嫌気がさした堀井千波は、引っ越しの準備を始めた。その最中に、一冊の本「いちばん初めにあった海」を見つける。読んだ覚えのない本の頁をめくっていると、未開封の手紙が一通はさんであった。差出人は”YUKI”。「ユキ?誰だっけ?」開封すると『わたしも人を殺したことがあるから』と謎めいた内容が書かれていた。彼女はいったい誰なのか?千波の過去探しの旅が始まる。 そして、「化石の樹」。 枯死しかけた金木犀。そこの「うろ」から一冊のノートが見つかった。ノートには、金木犀が植えられていた保育園にいた保母の手記のが書かれていた。物語はそのノートから紡がれていく。「ぼく」が語る、樹にまつわる物語。 どこがつながっているかとか共通のテーマがあるとかは読んでからのお楽しみとして、今までの加納作品とは一味違う面白さがあったな」 御影 「ミステリィなん?」 フジモリ 「今回はちと違う。ジャンルはなんだろうな・・・「ドラマ」かな」 御影 「ドラマ?」 フジモリ 「今作は、必ずしも「謎」や「その解決」を中心には据えていない。むしろ、それを取り巻く人々の人間模様がメインに描かれているんだ」 御影 「ほな、今までの加納朋子作品とは全く毛色がちゃうんやな」 フジモリ 「ところが、そうとも言いきれないんだな」 御影 「?」 フジモリ 「表題作「いちばん初めにあった海」では、加納朋子お得意の小道具「本」が登場する。この本が物語の鍵を握っているわけだ。そして、ミステリィ作家ならではの叙述トリックもあり、読みながら一度どんでん返しの気分を味わう。「加納朋子作品」の根底に流れているものを持っていながら、今までとは違った作品になっている。作品発表の順番的にも、「魔法飛行」と「ガラスの麒麟」の間に位置しているのがわかるよ。加納朋子を読もうとしている人は、やはり発表順に読むのがいちばんかもしれないね」 御影 「ふうん。せやけど、これまで取り上げた 「ななつのこ」 「魔法飛行」 「掌のなかの小鳥」 「ガラスの麒麟」</a>とほのぼのとした作品が多かってんけど、今作はちょっとちゃうなぁ」 フジモリ 「そうだね。詳しくは書けないけど、2作とも「喪失」と「再起」をテーマとしている。重いテーマだし、それには「死」が絡んでいる。ほのぼのというわけにはいかないね。その分、「感動」という要素が大きい。読後感は相変わらずの良さだし、思わずホロリとなるね」 御影 「重いテーマやけど、加納朋子の優しさあふれる筆致がやわらげとぉな」 フジモリ 「うむ。中篇ではあるが、物語に厚みがある。しかも、胃にもたれるほど重くない。2層構造のケーキみたいなもんだね」 御影 「せやから食べものに例えるんはいいかげんやめいっ!」 フジモリ 「自粛しよう。あとは、「いちばん初めにあった海」で使われていた「本」や「手紙」、「化石の樹」で出てきた「ノート」など、この人は小道具を使うのが実に上手い。これは、加納朋子全作品について言えるかもしれないね」 御影 「確かになぁ。ミステリィというほど重々しくないけど、ミステリィファンが読んでも楽しめる内容やしな」 フジモリ 「叙述トリックや謎解きなどミステリィ好きな人も楽しめる部分があるし、加納作品はどれも質が良くて面白いよ。本好きな人なら一度は読んでほしい、オススメの本だよ」 御影 「・・・叙述トリックかぁ。そういや、今回の感想、叙述トリックがあったゆぅん、わかっとった?」 フジモリ 「叙述トリック?フジモリは特にそういった発言はしてないし。・・・(発言を読みなおす)なんかそれらしき発言ってあったかなあ?」 御影 「発言ちゃうで」 フジモリ 「?」 御影 「今回の感想だけ、御影(みかげ)ではなく御影(おかげ)が担当していたという叙述トリックでした!」 フジモリ 「んなわけあるかいっ!!」 |