| フジモリの脳内ラビリンス
〜a labyrinth in fujimori's brain〜 Fourtieth bookshelf 北村薫『冬のオペラ』 |
フジモリ 「さて、この書棚もなんだかんだと40作目の本が並ぶことになりました。今回は、北村薫の「冬のオペラ」を取り上げます」 御影 「北村薫って、久々やなぁ」 フジモリ 「うん。この人の本はあらかた読み尽くしてしまったからね。ハードカバーは読んでないけど。 そういう意味では久々だ」 御影 「んーで、今回はどんな話なん?」 フジモリ 「「名探偵はなるものではない、存在であり、意志である」と言う名探偵・巫弓彦に出会ったわたし・姫宮あゆみは、彼の記録者を志願する。その二人が遭遇した、「名探偵が扱うのにふさわしい」3つの事件について書かれているんだ」 御影 「なんか、ほんまにベタな探偵小説やなぁ」 フジモリ 「粗筋だけ聞くとね。でも、やはり北村薫の世界だと感じた一冊だったね。面白かったよ」 御影 「北村薫の世界?」 フジモリ 「この小説は、いわゆる「探偵小説」だ。名探偵がいて、事件があって、探偵がそれを解決するというシンプルなストーリィ。それこそ、「名探偵コナン」や「金田一少年の事件簿」と同じ構成だ。しかし、文体や世界は紛れもなく北村薫という作者の色が出ていた」 御影 「ふぅん。北村薫のミステリィと言えば、「円紫師匠と私」シリーズや「覆面作家」シリーズやな。どっちも、ほのぼのとしてあまり人死にがでてこぉへん作品やな」 フジモリ 「そうだね。加納朋子作品とは違った意味での温かみを持ち、エスプリに富んでどことなくコミカルな作品、というのがフジモリが北村薫作品に抱いている感想だ」 御影 「で、今作もそんな感じやったん?」 フジモリ 「そう。前述したように、「冬のオペラ」に出てくる名探偵・巫弓彦は「名探偵はなるものではない、存在であり、意志である」などというしびれるような決め台詞をはいてくれる。しかし、その一方で「探偵だけで食べていけるものではない」と、ビアホールのウェイターや新聞配達、寿司屋の出前まで様々なアルバイトで生計を立てている、というコミカルな一面、あるいは現実の厳しさを教えてくれる一面を見せてくれるんだ」 御影 「・・・なんやねん!それ!」 フジモリ 「普通の探偵と違うだろ?」 御影 「なんか、めっちゃ現実味溢れるキャラクタやなぁ」 フジモリ 「そこだ。探偵小説って、ホームズシリーズに代表されるように、「探偵あるところ、事件あり」という構成になっている。いわば、探偵は事件を解決するために作者に産み出されたような存在なんだ。しかし、巫弓彦は名探偵というものの、実際は全くといっていいほど事件に遭遇しない(物語の時間軸でね)。記録者である姫宮あゆみが心配するほどだ。そこが逆に、作り物であるという違和感を読者に感じさせず、「本当にこんな探偵、いるんじゃないか?」という「近さ」を産むんだ。この「近さ」というのが、北村薫作品に共通する世界観だね」 御影 「確かに、「円紫師匠と私」なんかでも、日常に起こりそうな謎を解明しとぉし、読者に非常に近い印象を与えとぉな」 フジモリ 「読者、すなわち「日常」に近い物語という点では、「冬のオペラ」でアルバイトをしながら探偵をやっている巫弓彦の物語は、やはり「北村薫作品」という感想をもったわけだ」 御影 「それに、ワトソン役も「円紫師匠と私」シリーズと同じく20歳前後の女性やしな」 フジモリ 「やっぱ、北村薫はこの年代の女性心理を書かせたらピカイチだね。覆面作家の頃、作者を女性と思った人が大半だったという話も納得できるよ(笑)。名探偵・巫弓彦の記録者を志願した「わたし」こと姫宮あゆみの視点で物語が進んでいくんだけど、物語が進むにつれて成長していく様子が描かれている。そして、それを書く筆致も温かみに溢れている」 御影 「加納朋子作品でも同じこと言っとおな」 フジモリ 「今回「冬のオペラ」を読んで、加納朋子作品との違いが分かった。北村薫作品って、どこか距離をおいた「温かみ」なんだね」 御影 「距離をおく?」 フジモリ 「さっきは「読者に近い」と言ったけど、主人公たちとは距離をあけているんだ。加納朋子作品では作者が主人公たちに非常に近い位置で温かい眼差しをおくっているのに対し、北村薫作品ではちょっと距離をおきながら、「頑張れ」と温かい眼差しをおくっている。言うなれば、加納朋子作品は「友人の目」から見た視点、北村薫作品は「父親の目」から見た視点、かな」 御影 「ほぉ。で、「冬のオペラ」もそんな作品やった、と」 フジモリ 「そういうこと。哀しく残酷な事件に遭遇し、それを乗り越えていく巫と姫宮の二人を、作者は温かい視点から描いている。そういった点でも、この作品は北村薫作品だと言えるね」 御影 「ふうん。で、さっきからこの作品が北村薫作品やいうことばかり強調しとぉけど、この作品自体の作品はどうやったん?」 フジモリ 「そう。ここからがフジモリの言いたいことだったんだけど、この作品、そういった北村薫の世界の作品でありながら、ちょっと哀しく残酷な事件を扱う、異色の作品なんだ」 御影 「これまで読んだもんとは違うってわけなん?・・・まあ、扱っとぉのが殺人事件やからなぁ」 フジモリ 「それもあるし、読後感が他の作品とは違った。北村薫の他の作品は、読後感が清清しく、さわやかなのに対し、「冬のオペラ」はどこか哀しく、空虚な印象を受けた」 御影 「?、読後感が悪かったん?」 フジモリ 「そうではない。清清しいんだけど、哀しかった。結末がアンハッピィエンドとかそういうわけじゃないんだけどね。「冬のオペラ」というタイトルは、まさに絶妙だと思ったね」 御影 「よぉわからんな」 フジモリ 「うーん。上手く説明できないなぁ。まあ、3つの事件がそれぞれ「悪意」が介在する事件だ、というのも原因かな。ネタバレになるんで詳しくは説明できないけど。まあ、面白かったことは事実だし、決して貶しているわけではない。ただ、これまでの作品のイメージで読むとちょっとびっくりするかな」 御影 「なんか、どっかの感想で同じこと言ってへんかった?」 フジモリ 「き、気のせいだよ。とにかく、読みながら「ああ、やっぱり北村薫作品だ」という気持ちと「なんかちょっと今までの作品とは違うな」という気持ちがないまぜになる、そんな作品だったね。ただ、切れ味という点では一番シャープかもしれない。ガラスのナイフみたいな作品というのが、今回の感想だね」 御影 「まあ、なんちゅうても、「名探偵」が出て来とぉしね」 フジモリ 「そうだね。このシリーズ、もっと読んでみたいと思ったよ。 ・・・そういや、御影は世界初の「ツッコミ探偵」だったね」 御影 「それは前回の感想やろが!」 フジモリ 「いや、ひっぱりたくなって(笑)。巫弓彦も「名探偵はなるものではない、存在であり、意志である」という名台詞を言ってるし、やっぱり名探偵は決め台詞が必要なのかなぁ」 御影 「ん?ま、まあ、そうなんかもしれへんなぁ」 フジモリ 「「名探偵コナン」では「犯人はお前だ!」、「金田一少年の事件簿」では「謎は全て解けた!」「じっちゃんの名にかけて!」、京極堂シリーズでは「世の中にはね、不思議なことなど何ひとつないのだよ、関口君」、などなど、有名なセリフがあるからね。御影もなんか決め台詞を作らなきゃ」 御影 「なんでやねん!」 フジモリ 「「なんでやねん」かぁ。ちょっと弱いなぁ」 御影 「決め台詞ちゃうって!」 フジモリ 「これはどうだ。「謎は全てお前だ!関口君!」」 御影 「めっちゃパクリやろが!しかもごっちゃにしてどないすんねん!」 フジモリ 「なら、「犯人は全て溶けた!」はどうだ?」 御影 「勝手に溶解しとれ!」 フジモリ 「じゃあ、どうしろというんだ?」 御影 「どぉもせんわ!ええかげんにしなさいっ!」 |