| フジモリの脳内ラビリンス
〜a labyrinth in fujimori's brain〜 Thirty-ninth bookshelf 新城カズマ『屍天使学院は水没せり』 |
フジモリ 「さて、今回は新城カズマの「屍天使学院は水没せり」を取り上げることにする」 御影 「新城カズマって、前にあんたが「麦酒の家の冒険」の感想を書いたときに名前出してへんかったっけ?」 フジモリ 「酒の席の話だから覚えてないなぁ」 御影 「嘘つけっ!何回同じボケしてんねん!」 フジモリ 「リピートボケは今回限りにしておこう。前回フジモリが取り上げたのは、新城十馬名義で書かれた作品、「蓬莱学園の初恋!」(富士見ファンタジア文庫)だ。 東京の南、2500qの海上にある宇津帆島は、まるまる一つの学校である。新入生の朝比奈純一は、学園遊覧の飛行船から覗いた双眼鏡に映った少女に一目惚れしてしまいう。彼の一途な想いとハチャメチャな行動、そしてその少女の正体から、学園を揺さぶる大事件に発展する・・・ という話だ。引用文などから作者は古今東西の書物の知識に詳しいと推察できるし、内容も面白かった。当時から「この人がミステリィを書いたら面白い物ができるだろうなぁ」と思っていたんで、この本が出たのは嬉しい限りだった」 御影 「ほうほう。んーで、面白かったん?」 フジモリ 「そう結論をせかすな。まずは粗筋から。御影、どうぞ」 御影 「はいな。でも、この本って粗筋説明するのってむずいわなぁ。えーっと、 由緒正しい女学院、聖クラリッサ学院に通う深草真夜は謎の白い巨大な猿に襲われかける。その危機を救った現実離れした青年・朱月宵三郎は自らを「浪漫探偵」と名乗り、とある小説に封印されていたと語る。そして真夜に、同じく小説から抜け出た「夕闇男爵」を追っていることを告げる。 信じない真夜であったが、彼女のもとにその「夕闇男爵」から犯行予告が届く・・・。 という話や」 フジモリ 「粗筋だけ聞くと、めちゃくちゃな話だな、これ(笑)。さて、この本の感想だが、良い意味で期待を裏切られたし、期待に添う内容だった」 御影 「おーい、言っとぉことが矛盾しとぉでぇ」 フジモリ 「あえてそういう言い方をしてみた。言葉足らずのようだったから補足しよう。この話、伝奇小説として読むとフジモリの期待通りの内容で面白かったし、ミステリィとして読むと期待を良い意味で裏切られて面白かった、と言いたかったんだ。伝奇小説としての面白さとミステリィとしての面白さ、両方を兼ね備えた本だったね」 御影 「えらい評価が高いんやなぁ。ほな、一つ一つ聞いてこか。伝奇小説として、期待に添う物やったってのは?」 フジモリ 「粗筋でも言ってたけど、とにかくこの物語の世界は現実離れしている。本から飛び出た探偵、本から飛び出た怪盗、そして終盤の舞台である「すべての本が納められている」無限図書館、などなど。それぞれで本が一冊書けるぐらいの設定を持ちながら、それらをこの一冊に積めこんでしまう。非常に豪華だし、密度の濃い本だ」 御影 「確かに。無限図書館なんて、それだけで冒険小説が書けてまうで。なにしろ、「この世に無い本」ですら存在してるわけやし、「無限図書館の外にしか存在しない本」ですら「存在」するわけや。もう、わけわからんわ」 フジモリ 「なにしろ、「無限」だからね。登場人物たちも個性的だ。俗に言う、キャラが立っているというやつだ。物語としてよくまとまってるし、続きが読みたくなるぐらいの絶妙な匙加減。この作者、こういう「架空の学園物」を書かせたら天下一品だね」 御影 「めっちゃべた褒めしとぉなぁ」 フジモリ 「物語に必要な要素、この作者は特に「世界」の構築に長けていると思うよ。「蓬莱学園シリーズ」とかね。「時の果てのフェブラリー」などのハードSFが科学によって「世界(舞台、と読み換えても可)」を構築しているのとは全く逆の立場で「世界」を構築しているところも興味深い」 御影 「逆?」 フジモリ 「文化学とか、社会学とか、哲学とか、いわゆる「文学」からのアプローチだ。「蓬莱学園」では一つの国家に近い学園を創造したし、今回の作品に出てくる「無限図書館」では「無限」を哲学的な視点から「創造」した。フジモリがもともと「こちら側(文系側)」の人間だからか、非常にすんなりとこの世界に入っていけたよ」 御影 「つまり、「ストーリィ」「キャラクタ」「世界」の3拍子兼ね備えた小説やった、ってわけやな」 フジモリ 「そういうこと」 御影 「ふうん。・・・ほな、ミステリィとして、「期待を裏切られた」ってどういう意味なん?」 フジモリ 「この小説を、普通のミステリィだと思って読むと期待を裏切られるってことだ。作中で浪漫探偵、朱月宵三郎はこう言っている。 「探偵にとっての関心事は、論理的かどうかであって、現実的かどうかではないのだよ」(p53) 「そうだとも。この事件は<男爵>のものであり、物理的法則の裡にはない。夜の論理、浪漫の考察が必要なのだ」(p115) この小説は、浪漫的論理に基づいた推理小説なんだ」 御影 「浪漫的?どういうことなん?」 フジモリ 「この小説には「謎」「伏線」「探偵」「解決」というフジモリが以前挙げた「ミステリィの条件」をすべて満たしていながらも(だからこそ、この小説は「ミステリィ」なのだが)、その過程はさっきも説明したように、伝奇小説を下地にしている。これだけハチャメチャな世界で推理や論理は通じるわけもないように見えるが、実は彼らはそれぞれのルール、「浪漫的論理」に従っている。だから、読者もその気になれば「謎」を解くことができるんだ。しかし、それは論理的にではなく、浪漫的に考えなければならない。そういう意味で、この小説は普通のミステリィとは違うし、ミステリィだと思って読むと期待を裏切られるというわけだ」 御影 「一見ハチャメチャな設定やけど、しっかりルールが決まっているミステリィかぁ。西澤保彦の「神麻嗣子シリーズ」を思い浮かばせるなぁ」 フジモリ 「そうだね。雰囲気としてはそれに近い。しかし、この小説はさらにハチャメチャだし、ルールは明確に提示されない。ある意味、そのルールを探すのが「浪漫的推理」なのかもしれないね」 御影 「ほな、この小説、ミステリィと伝奇小説がうまく融合しとるんやなぁ」 フジモリ 「ミステリィとして読んでも、伏線が所々にちりばめられているし、技術的にも他の本格推理小説と比べて遜色無い。フジモリも、伏線の確認に思わずすぐに再読してしまったぐらいだ」 御影 「えらいべた褒めやなぁ」 フジモリ 「うむ。ひょっとすると、現時点で今年No1の小説かもしれない。それほどまでに面白かった。出版社のイメージからライトノベルとして敬遠している人もいるかもしれないけど、本格推理小説ファンの人はぜひ読んでほしい作品だね。ほんと、ライトノベルとして出版されるのはもったいないぐらいだよ」 御影 「そういや、この本って、「富士見ミステリー文庫」として富士見書房から出版されとんのやな」 フジモリ 「富士見書房はファンタジィ(富士見ファンタジア文庫)のイメージがあるんで、新しい文庫のシリーズとして創刊されたみたいだね。ライトノベルの流れを継承したミステリーという位置付けだ。まあ、フジモリとしては「屍天使学院は水没せり」はライトノベルと言うよりも本格ミステリィに分類できるぐらいの中身だったけど」 御影 「でも、講談社ノベルズから出たとしてもなんか違うやろ?」 フジモリ 「「殺竜事件」とか出てるし、いいんじゃない?」 御影 「ああ、そうやね。しかし、こうしてみると、ミステリ小説って幅広いなぁ」 フジモリ 「まあ、「ミステリ」というジャンル付けをすれば、売れ行きが上がるという戦略的な意味合いもあるんだろうけどね。そういや、ダ・ヴィンチで田中芳樹の「創竜伝」がミステリーとして新刊案内に出てたときにはびっくりしたなあ」 御影 「あれがミステリーなん?」 フジモリ 「ま、呼ぶのは勝手だからね。したがって、フジモリがこの読書感想を「ミステリィ」と言い張ったって良いわけだ。言ったもん勝ち。「この感想は、本格ミステリィだ!」」 御影 「んなあほな!「謎」は?「探偵」は?「解決」は?」 フジモリ 「それを見つけるのが「謎」、「探偵」は御影、「解決」は御影のツッコミ。ってのはどうだ?」 御影 「思いつきで人を「世界最初のツッコミ探偵」にすなぁっ!」 |