| フジモリの脳内ラビリンス
〜a labyrinth in fujimori's brain〜 Thirty-seventh bookshelf M・ハリス『ヒトはなぜヒトを食べたか』 |
フジモリ 「さて、映画「ハンニバル」も公開され、最後の会食シーンが(ある意味で)話題をさらっているようですが、今回はそれにちなんだ読書をしてみました」 御影 「?、なんや?原作「ハンニバル」は去年読んどぉし、再読は感想に挙げへんポリシィやし・・・」 フジモリ 「今回読んだのは、ハンニバル・ザ・カーニバル(人食いハンニバル)にちなんで、マーヴィン・ハリスの「ヒトはなぜヒトを食べたか」の感想をお届けします」 御影 「・・・・・・(無言で手を振り、あとずさる)」 フジモリ 「まてまて!ひくな!別に猟奇事件を扱った本ではないぞ!フジモリの趣味が誤解されるような反応をするなぁっ!」 御影 「え?ちゃうかったん?」 フジモリ 「ちがうちがう。副題は「生態人類学から見た文化の起源」。まともな人類学の本だぞ」 御影 「ああ、そうやったんや。ウチはてっきり、「快楽殺人者の心理」とか「診断名サイコパス」みたいなマーダーもんかと思っとったわ」 フジモリ 「(まあ、そういう本も持ってるけど)今回は違う。生態学の観点に立って、人肉食、宗教的食べ物のタブー(牛を食べない、豚を食べないなど)、男性優位思想、農業革命、産業革命などについて語っている本だ」 御影 「ほぉ。おもろそうやな。前に感想を書いた、「音楽と言語」みたいな学術書やな」 フジモリ 「そうだね。著者のマーヴィン・ハリスは気鋭の人類学者として学会では有名な人だ」 御影 「・・・そもそも、人類学ってなんなん?」 フジモリ 「広辞苑によると、「人類の形質・文化・社会の多様性と普遍性を、さまざまな側面から総合的・実証的に明らかにする学問」とある。おもにフィールドワークによって、昔の人類はどんな生活をしていたのかなどを研究する学問だ」 御影 「フィールドワークで?」 フジモリ 「未開の地の人々を研究することで、石器時代の人々の生活を類推する。前も言ったんだけど、研究者が対象と接触することで対象に影響を与えてしまうんで、フジモリはあんまりこの学問は好きじゃないんだけど、まあ、必要悪といったところかな」 御影 「なんか偏見に満ちた発言をしてるよぉな気ぃすんねんけど」 フジモリ 「気のせいだ。この本を読んで認識が改まったしね。タイトルはちょっと過激だけど、内容はいたってまとも。ああ、ちょっと健全な青少年には向かない部分もあるけどね。嬰児殺しとか、女児殺しとか」 御影 「うわぁ」 フジモリ 「人間という種を存続させるためには、どうしても人口の抑制が必要だった。人口密度の安定だね。狩猟時代は主に動物性蛋白質のみの栄養だったんで、脂肪の蓄積が少なくてすんだ。女性が子供を生めるような体になるには(ぶっちゃけて言えば、初潮を迎えるには)ある程度の脂肪(カロリー)の蓄積が必要なんだけど、狩猟時代のそれは18歳以上だったんだそうだ。狩猟時代は人口の増加が緩やかだったため、あまり人口を抑制する必要がなかった」 御影 「現代のように医療技術も発達しとらんかったし、病気で死ぬ人も多かったんやな」 フジモリ 「それは違う。当時は病気が流行る湿地帯より乾いた地帯で狩猟を行ってたんで病気にかかりにくかったし、万が一かかったとしても栄養がよかったんで回復率はよかったんだそうだ。今から3万年前の平均身長は、成人男性が177cm、成人女性が165cmとかなり大柄だ。狩猟時代は、思ってるほど野蛮で、不便で、死と隣り合わせの時代ではなかったみたいだよ」 御影 「へぇ。そうなんや」 フジモリ 「しかし、人口は増えなくても狩猟の対象になる大型の動物は減ってくる。それによって、人々はやむを得ず稲作(耕作)を始めたんだそうだ」 御影 「やむを得ずなん?」 フジモリ 「まあ、その過程は推測するしかないんだが、狩猟相手が無限に存在してたならば今でも狩猟生活をしていたかもしれないことは事実。稲作によって少ないカロリー消費で多くのカロリーを手にすることが出来た。しかし、稲作によってえられるカロリー、澱粉質は肉から得る蛋白質よりも脂肪として貯蓄されやすい。すると受胎可能な年齢も下がってくる。そうすると今のように避妊の技術が発達していないんで、昔はどうしても人口の増加が顕著になってくる。そこで行われたのが、堕胎や嬰児殺し、はたまた女児殺しだったんだ」 御影 「うわぁ」 フジモリ 「稲作(耕作)によって「土地」という概念が生じると、それにともない戦争がおこる。領地の取りあいだね。再生産の圧力によって戦争が起こり、人口抑制を行うために女児殺しを行う。人口を減らすには、男性を減らすよりも、という考えだ。そしてそれを正当化するため、男児を優遇し、戦争で兵隊とさせる」 御影 「なんか、怒りがふつふつと湧いてきてんねんけど・・・」 フジモリ 「フジモリの意見じゃないぞ、念のため。そうやって、男性優位社会が生まれたわけだ。事実、未開の地でも一妻多夫制よりも一夫多妻制の社会の方が圧倒的に多い。これは、女性は兵隊である男性に戦功として与えられる報酬であったからだ。・・・なんだか、書きながら嫌な気分になってきた」 御影 「感想、途中で打ち切らへん?」 フジモリ 「そ、そうもいかない。まあ、そんな感じでコスト=ベネフィットを比較し、人間という種を滅亡させないために再生産の圧力と戦いながら今の社会が出来た、というわけだ。宗教上の食べ物のタブー、牛を食べないとか豚を食べないとかも、牛や豚を育てるカロリー(コスト)が摂取したときのカロリー(ベネフィット)よりも多いから、食べることを禁じるようになったらしい。牛は農耕の際に役に立つんで殺さない方がベネフィットが大きいし、豚は穀物を食べるんで育てるのにえらいコストがかかる。それをタブーとした地方の、土地柄が反映されている、というわけだ」 御影 「はぁ。なんか、文化はすべて食べ物、ひいては人間が生きていくための外界の環境から生まれたみたいな論旨やなぁ」 フジモリ 「文化唯物論だね。そういうふうに受け取られてしまうかもしれないけど、著者は一応「そうではない」と断りを入れている。しかし、大きく影響を与えたことは事実だという主旨で話をすすめているね。まあ、戦争は人間の本能だという文化論や性欲ありきの心理学よりもずいぶんまともな考え方だと思うよ」 御影 「んーで、なんでヒトはヒトを食べるようになったん?」 フジモリ 「うーん。あんまり、そこのところは詳しく書いてない。まあ、貴重な動物性蛋白質だった地方もあるという説明はされていたけどね。この本は、どちらかといえば食生活を通じて人類が今まで歩んできた文化について説明している本だ。読んで雑学として他人に披露するには絶対に向かないと思うけど、こういう考え方もあるんだな、程度に読んで損はないと思ったよ」 御影 「勉強にはなったんやな。(フジモリが読んだ本を見て)おうおう、なんかページに付箋をいっぱい貼っとぉし」 フジモリ 「最初に言っただろ、学術書だって。「ヒトはどこから来てどこへ行くのか」なんて漠然と思う人は、その道しるべの一つとして参考になるんじゃないかな。学術書といっても明快な説明、鮮やかな論理展開でどんどん引き込まれていくし、最近ミステリィばっかり読んでいたフジモリの頭にとっていい知的刺激になった。たまにはこういう本を読むのもいいもんだね」 御影 「んーで、結局レクター博士が人肉を食べる理由はわかったん?」 フジモリ 「えーっと、人肉を取り込むことで対象のパワーを取り込むという祭事的効果が・・・」 御影 「んなわけあるかいっ!」 |