| フジモリの脳内ラビリンス
〜a labyrinth in fujimori's brain〜 Thirty-sixth bookshelf 加納朋子『ガラスの麒麟』 |
フジモリ 「さて、またかまたかと言われそうですが、今回は加納朋子の「ガラスの麒麟」の感想をお送りします」 御影 「またかまたか」 フジモリ 「前もやっただろ、そのネタ」 御影 「まさかまさか」 フジモリ 「もういいってば!毎回毎回小ネタを挟んで導入するってのも変化がないだろが!」 御影 「前回の加納朋子の感想は「ボケなし・突っ込みなし・言い訳なし」のめっちゃシリアスモードやったやん」 フジモリ 「うっ。なんか、たまにまともなツッコミするなぁ、お前」 御影 「変化のある導入というわけや。で、今回の加納朋子の作品やけど、どんな話なん?」 フジモリ 「今回の物語は、冒頭で女子高生・安藤麻衣子が通り魔に殺されたところから始まる。彼女に関わる人々が遭遇する、さまざまな事件を短編でつづり、最後にそれらが一つになっていく連作短編集だ」 御影 「これまでに出してきた、「ななつのこ」、「魔法飛行」、「掌のなかの小鳥」みたいな感じやな」 フジモリ 「そうだね。今作は今までの作品に比べ、より連作という色合いが強くなっている。イメージで言えば、今までの3作が短編を一本の軸でつないだ串団子だとすれば、今作は一つの物語を様々な人物が遭遇したストーリィで構成したピース切りのケーキみたいなもんだ(注:実際は、「ななつのこ」「魔法飛行」「掌のなかの小鳥」の次に、「いちばんはじめにあった海」を刊行しています)」 御影 「また食べもんの例え話か。でも、一つの事件に様々な人物がからんでるっちゅうのは、ブギーポップみたいやな」 フジモリ 「フジモリはゲームの「街」を思い浮かべるけどね(笑)。まあ、「ブギーポップは笑わない」の刊行は1998年、「ガラスの麒麟」は1997年刊行だから、こっちのほうが早い。一つの短編で登場した人物が次の短編に主役として登場する様子は、マルチアングル化としてうまい趣向だし、物語に広がりを持たせることが出来る。今作は、ミステリという部分に関しては前作からさらに技術が上がってるね」 御影 「そーいや、加納朋子作品では珍しく殺人を取り扱っとぉな」 フジモリ 「今回は、人間の「闇」という重いテーマを書いている。今までの作品は「温かく、柔らかい」作品だっただけに、そういう作品を期待してた人にはちょっと肩透かしかもしれない」 御影 「そやなぁ。加納朋子と北村薫、いろいろ共通点を指摘されとぉけど、ともに作中に「悪意」が出てこぉへんところも共通しとったもんなぁ」 フジモリ 「だね。今までの作品が「ミステリ風味のメルヘン」だとしたら、近作「ガラスの麒麟」はフジモリが読んだ初めての本格的なミステリ作品と言えるかもしれない」 御影 「んーで、感想はどぉやったん?」 フジモリ 「う〜む。評価に悩むところだね。加納朋子の持ち味はその柔らかい筆致と登場人物達に対する温かい眼差しだと思ってるんで、今回の「殺人」という重い闇を取り扱う展開はその持ち味を完全に活かしきれているとは言えない。なんというか、「悪人も憎めない」という作品になってしまっているんだよね。それぞれの短編の登場人物が集結して最後の短編で安藤麻衣子を殺した犯人を突き止めるところなど、ミステリとしてはよく出来ている。しかし、これまでの作品を読んで同じような内容、展開だと思って読むと、ちょっと肩透かしを食らうんじゃないかな」 御影 「あんたのことやろ」 フジモリ 「まあ、フジモリは見事に肩透かしを食らった。ただ、「殺人」という面ではなく、作中に出てくる少女たちの心、まさしくタイトルのような「ガラス」のように繊細な内面を描いている部分という面での「闇」の取り上げ方は、非常に興味深い。視点の角度の違いかもしれないけど、「殺人」を軸にしたミステリとして読むのではなく、「少女たちの繊細な心」を軸にしたミステリとして読むと面白いんじゃいかな」 御影 「タイトルの「ガラスの麒麟」という言葉にテーマが集約されているわけやな」 フジモリ 「そうだね。麒麟といっても伝説の聖獣のことではない」 御影 「わかっとるわ!」 フジモリ 「いや、重要なことだよ。普通、キリンといえばジラフ、あの首の長い動物のことで、麒麟といえばビールの缶にも書いてある伝説の聖獣のことを指す。しかし、あえて「ガラスの麒麟」とタイトルをつけたのはなぜか、本文を読めば、それに意味があることがわかるはずだ」 御影 「ふぅん。そうなんや」 フジモリ 「この作品は日本推理作家協会賞受賞作になっただけあって、ミステリという部分が重めになっている。これまでの「ミステリっぽいメルヘン」(注:褒めてます)とは全く違ったものと考えていい。作者がこれまでとは作風を変えようと思ったのかはわからないけど、新たな加納朋子の一面を見せた本だと思うね」 御影 「・・・そういや、あんた、ここまでで「ミステリィ」と言わずに「ミステリ」って言っとぉけど?」 フジモリ 「フジモリにとって、「ミステリィ」とは本格推理小説のイメージがあるけど、今回の作品にはそぐわない気がしたんで、あくまで「ミステリ」とさせてもらった。前作までの作品は北村薫作品に通ずるところがあったから、ミステリィといってたけど、今回はちょっと違う気がしたんでね。ま、フジモリのちょっとしたこだわりみたいなもんだ」 御影 「ほんまかなぁ?(前回までの感想を読み直す)」 フジモリ 「うっ。確認はやめてくれ。矛盾点が出てきそうだから」 御影 「しゃあないなぁ。ほな、やめたるわ。んーで、この作品は、「ミステリィ」やなくって、「ミステリ」なわけやな」 フジモリ 「それが、今回の感想かな。今までとは雰囲気ががらっと変わった作品なんで、最初は戸惑うかもしれないけど、これまでの加納朋子作品が好きな人なら、やっぱり読んで損はない作品だと思うね。今回はこれまでの作品の「ミステリ」という部分を抜き出して料理したような感じだ。少女の繊細な心とやらはフジモリはよくわからないし共感しようもないけど(笑)、雰囲気は伝わってくる。「悪人を憎めない」とフジモリは評したけど、それはこの作品も温かな視線で書いているということを意味している。まあ、ミステリと肩肘張って読むのではなく、映画やドラマを見るような気分で読んでみてください。最初の方でちょっと厳しめの感想になってしまったかもしれないけど、面白かったことは事実。なんというか、他のミステリィなどの合間合間に読むといいのかもね。デザート気分で」 御影 「ケーキに例えとったもんなぁ。今作「ガラスの麒麟」の中身自体は、ケーキのピースの短編を読んでいくうちに、ケーキの形が分かり、知らず知らずのうちにケーキを丸ごと食べている、ちゅうような感じなんやな」 フジモリ 「そのとおり。全体像を見ながら読んでいくのも面白いかもしれないね。ケーキの全容を推理しながら、ピースに切られた短編を味わう。これが、フジモリなりの「ガラスの麒麟」をより楽しく読む方法だ」 御影 「ケーキをまるまる一つかぁ・・・。なんか、考えただけでも、胸焼けがしてくんねんけど」 フジモリ 「そうかぁ?フジモリは別に平気だけどな。ほら、よくケーキ屋で、衝動買いでケーキをまるごと一つ、買ってしまうことってあるだろ?」 御影 「ないわっ!あんたが特別なんや!」 |