| フジモリの脳内ラビリンス
〜a labyrinth in fujimori's brain〜 Thirty-third bookshelf H・ケメルマン『九マイルは遠すぎる』 |
フジモリ 「さて、今回は久々に海外の作品を。ハリイ・ケメルマンの「九マイルは遠すぎる」だ」 御影 「西澤保彦の「麦酒の家の冒険」で取り上げてへんかったっけ?」 フジモリ 「酒の席の話だから覚えてないなぁ」 御影 「嘘つけぇっ!」 フジモリ 「まあ、それは冗談として。実は、そのときは資料として読んだんで「九マイルは遠すぎる」という短編集の中の表題作、「九マイルは遠すぎる」を読んだだけだったんだ。で、それ以外の作品も読んだんで、今回晴れて全部を読んだわけだ」 御影 「九マイルは遠すぎるって、短編集なん?」 フジモリ 「うむ。ニッキィことニコラス・ウェルト教授と郡検事の「わたし」が出てくる、シリーズものの短編集だ。ただし、それぞれの短編にはつながりはなく、それぞれを独立した短編として読むことができる」 御影 「ふーん」 フジモリ 「これらの短編の中で、表題作「九マイルは遠すぎる」という作品だけが有名すぎて、他の短編って意外と影が薄いんだけど、それぞれ読み応えがあっておもしろいぞ」 御影 「前回も説明したと思うねんけど、「九マイルは遠すぎる」って、どんな話なん?」 フジモリ 「そうだね。改めて粗筋を説明しておこう。「九マイルの道を歩くのは容易じゃない、ましてや雨の道ともなるとなおさらだ」という言葉から、ニッキィ教授が前日の殺人事件まで推理を飛躍させてしまうという短編だ」 御影 「で、他の短編もそういった話なんやな」 フジモリ 「そうだね。例えば、ホテルの隣りの部屋で湯沸しが音を立てたのを聞いただけで、とある犯罪の可能性に至ったり、チェスの最中対戦相手がその友人としゃべってる内容から、事件の真相を突き止めたりと、とにかく「ほんのささいな出来事」から、「大事件への可能性」に思い至る過程が爽快だね」 御影 「でも、なんか、「こじつけ」とゆーか「屁理屈」とゆーか、そんな感じもすんねんけど・・・」 フジモリ 「ま、推理なんてたいていそんなもんだよ。「九マイルは遠すぎる」は、それの極端な形と言っていいだろう。まさしく、「推理小説」だね。与えられる条件は読者も同じ。しかし、結論への導き方が上手に展開され、「事象(きっかけとなる出来事)」と「結果(そこから推理される出来事)」のギャップもすごい。読んでいて「ほほう、そうなるか」と膝をたたくこと請け合いだね」 御影 「へぇ。そういう風に言われると、この小説が推理小説の金字塔としてメジャなんも、わからんでもないな。いわゆる、「安楽椅子探偵」なんやろ?」 フジモリ 「そう。フィールドワークをせず、事件を聞いただけで事件の真相を推理してしまう。そんな探偵のこと。この作品内の探偵役、ニッキィ教授はまさしく安楽椅子探偵だね」 御影 「♪黙って座ればぴたりと当たる〜」 フジモリ 「ま、まあ、なんで歌うのかはわからないけど、そんなよぉなもんだ」 御影 「でも、そんな探偵がいたら便利やろな。話を聞いただけで、事件の真相がわかってまうなんて」 フジモリ 「ただし、この種の探偵は現実には絶対いないだろうね」 御影 「?、なんで?・・・そんな夢を壊すようなことを言わんでも・・・」 フジモリ 「森博嗣がこの作品を紹介した時に言ってたけど、こういった「推理」ってのは、「最もありそうな可能性」を積み重ねただけなんだ。その可能性が例え8割だとしても、5回積み重ねると3割になる。推理ってのは、わずかな可能性を積み重ねた上にある、非常に不安定なものなんだ。わずかな証拠から真実を導き出すことは、まさしくギャンブルなみの確率なんだよ」 御影 「なるほど」 フジモリ 「まあ、だからこそ、推理小説、ひいてはミステリィが流行するわけなんだけどね」 御影 「確かに、こんがらがった謎がすぱっと解決する過程は、めっちゃカタルシスあるもんなぁ」 フジモリ 「ただ、推理のアプローチの仕方は、「九マイルは遠すぎる」に代表される「推理積み上げ型」から、多趣性を帯びた気もするね。森博嗣の「犀川&萌絵シリーズ」における犀川助教授の推理は、間違いなく「消去型」だ。「積む」んじゃなくて、「彫る」イメージだね。絵画ではなく、版画」 御影 「なんとなく言いたいことはわかるな。犀川助教授の推理は、最後まで残った推論を選ぶ、ゆーことやろ?」 フジモリ 「そんな感じだ。誤解を恐れずに言うと、犀川助教授とニッキィ教授は全く対極の位置に立っている探偵なんじゃないかな」 御影 「まあ、危うい積み重ねゆーても、ニッキィ教授の推理は凄いわな。ちょっとした出来事、会話のちょっとしたセンテンスから真相を見抜くんやから」 フジモリ 「うむ。そういう点では、他の推理小説に出てくる探偵にひけを取らないぐらいの「名探偵」だ。推理小説のルーツを知るために読んでもいいし、純粋にニッキィ教授の推理に酔ってもいい。どちらかといえば「パズル」に近いのかもしれない。「推理」を楽しみたい人に、お勧めの本だね」 御影 「ふぅん。・・・でも、日常生活でこんな人がおったらイヤやろな。うかつに話もできひん」 フジモリ 「まあ、言葉の端々のセンテンスから、感情を読み取れたりするからね。「コーヒーと紅茶どっちにする?」「あ、コーヒーでいいです」とかいう会話でも、(コーヒー「で」ということは、ほんとは別のものが飲みたいのかな)と邪推される可能性もある」 御影 「あるかぁ?」 フジモリ 「あくまで可能性だ。だけど、そういった助詞一つ一つも、本来なら慎重に使った方がいいし、読み取る能力を持った方がいいね」 御影 「そのわりには、あんたの文の書き方にはそういった配慮が見られへんな」 フジモリ 「え?まあ、しょうがないよ。このページって、アメリカ在住のフジモリが、英語で書いた原稿を翻訳ソフトで訳してもらってるから。助詞とかは一元的なものになっちゃうんだよねぇ。Translation is difficult.ああ、翻訳漏れが」 御影 「誰でもわかるような嘘をつくなぁっ!」 |