フジモリの脳内ラビリンス

〜a labyrinth in fujimori's brain〜

Twenty-fifth bookshelf
田中芳樹『風よ、万里を翔けよ』



フジモリ 
「またもミステリィではない作品だ。今回は、田中芳樹の「風よ、万里を翔けよ」を読んでみました」

御影 
「田中芳樹の十八番、中国歴史小説やな」

フジモリ 
「そう。最近ではこっちよりに傾いてるね。ま、面白いからいいんだけど、とりあえず完結させてほしい作品もいくつかあるなぁ。このままだと、代表作品として後世に残るのが「銀河英雄伝説」だけで、あとはすべて未完、なんてことになりかねないからね(笑)」

御影 
「不吉なことを・・・」

フジモリ 
「さて、「風よ、万里を翔けよ」はディズニーが映画にも取り上げた「ムーラン」こと花木蘭を軸に、隋唐の移り変わりについて書かれた小説だ。花木蘭は病気の父に代わり少年兵として志願した美少女。朋友、賀廷玉とともに足掛け9年にもわたり戦場を駆け巡る。時はまさに隋から唐への移り変わり。この物語は、男装の佳人である花木欄の物語であり、大隋帝国の衰退の話でもあるんだ」

御影 
「毎回毎回思うんやけど、田中芳樹ってほんま、文献をごっつ調べとるやんなぁ」

フジモリ 
「うん。この物語も、さまざまな文献をもとに田中芳樹が換骨奪胎した物語なんだけど、登場人物から当時の情勢など、一切に破綻がないように書かれている。この綿密さは、まさしく尊敬に値するよ」

御影 
「で、今回の感想は?」

フジモリ 
「うん。中国の歴史ものって「三国志」ぐらいしか知られてないんだけど、やっぱりどの時代も面白いし、英雄というものは存在するね。今回の舞台の隋唐もこうやって読んでみると非常に興味を持つよ。作者が訳した「隋唐演義」も読んでみたくなった」

御影 
「読んでなかったんかい!もと中国文学専攻が!」

フジモリ 
「いや、一般の読者としての感想を、ね」

御影 
「わけわからんわ!」

フジモリ 
「と、とにかく、田中芳樹の作品って、中国文学に根ざしたものなんだなってのが感想。題材もそうだし、表現方法も」

御影 
「?」

フジモリ 
「題材っていうのはわかるよね。歴史小説で登場する、愚帝と革命者。これを突き詰めたものが「優れた帝国主義か、愚かな民主主義か」というジレンマを物語の主軸にした「銀河英雄伝説」になるし(アイヨシ、書評がんばってね)、合戦における戦略、戦術は田中芳樹の戦争ものに大いに活かされている。ほんと、中国の小説は、ネタの宝庫だと思うよ。しかも、それだけ面白い小説が多いのに日本にはとんど知られていない」

御影 
あんたが卒論で取り上げた「聊斎志異」なんかもそうやなぁ」

フジモリ 
「だね。田中芳樹はそれら中国歴史小説の面白い部分をうまく作品に取り込んでいる。宇宙での戦争に孫子の兵法が使われている、それだけでもすごいと思うよ」

御影 
「で、表現、ゆぅんは?」

フジモリ 
「中国の文化である、「漢詩」だ。フジモリも授業でいろいろ勉強したが、漢詩というのは非常に奥が深い。有名なのは唐代の詩だね。フジモリは詩仙、李白が好き」

御影 
「酒好きなところ?」

フジモリ 
「それもあるかな。「月下獨酌」なんかは良いねぇ。・・・でも、俳人、松雄芭蕉は「芭蕉」の前に「桃青」と号していたんだけど、それは李→桃、白→青の転換で桃青と称したとも言われているぞ」

御影 
「うそぉっ!?」

フジモリ 
「ほんとほんと。で、漢詩は古来から日本の文化に影響を与えてきたんだけど、田中芳樹の文体もどこか漢詩の匂いがする。ま、根拠はないんだけどね」

御影 
「漢字が多いからちゃうん?」

フジモリ 
「そうではない。・・・と、思うけど」

御影 
「ま、今回読んだ「風よ、万里を翔けよ」も、漢詩が多く引用されとったしなぁ」

フジモリ 
「そうだね。この小説、田中芳樹という小説家を知らない人が読んでも楽しめる中国歴史小説だし、主人公花木蘭の青春物語とも言える。さらに、田中芳樹の作品のルーツもわかる、一冊でさまざまな楽しみ方ができる作品だと思うよ。「三国志」とかが好きな人は、絶対に読んでほしいね。中国文学の面白さがわかるから。フジモリも久々に中国文学が読みたくなったよ。漢詩でも読もっかなぁ」

御影 
「・・・あんなぁ、昔話してもえぇ?」

フジモリ 
「なんだ、突然」

御影 
「この本がハードカバーで出た当時(10年前)、フジモリこの作品のタイトルを「風よ、巴里を翔けよ」と勘違いしとって、友達に粗筋を聞かれたときに「中国の男装の佳人が飛行機のパイロットになって、パリの空を飛ぶ話だよ」って答えとったやろ?」

フジモリ 
「ほんとの昔話じゃないか!やめなさい!」

御影 
「でも、タイトルから妄想だけでそこまでストーリィ作れるんやからすごいやんなぁ」

フジモリ 
「うう。恥ずかしい話をばらしおって。でもまあ、どうしてそんな話を思いついたんだろうなぁ。御影、心当たりある?」

御影 
「ないわ!」



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