フジモリの脳内ラビリンス

〜a labyrinth in fujimori's brain〜

Twenty-second bookshelf
西澤保彦『幻惑密室』



フジモリ 「またかまたかと言われそうですが、今回の感想は西澤保彦のミステリィ小説「幻惑密室」です」

御影 「またかまたか」

フジモリ 「お前が言うな!」

御影 「まだかまだか」

フジモリ 「何をだよ!感想は今から!」

御影 「ふーん。ほな、あらすじを」

フジモリ 「おう。密室と化した社長宅で、殺人事件が起こった。室内は時間の流れが狂い、出ようとしても出られないという不可思議な密室。そこに出てきたのが<超能力者問題秘密対策委員会>、略してチョーモンインの「見習」神麻嗣子。彼女はやり手の女警部能解や推理作家の保科とともに、超能力による密室殺人の調査を始めた、という話だ」

御影 「ミステリィに超能力かぁ。なんか、食い合わせがめっちゃ悪いように思えんねんけど・・・」

フジモリ 「お、今回は御影が食べ物の比喩を使ったな。ところが、中身はいたって本格的なミステリィ。超能力といっても、その働きや制限を明示し、読者にアンフェア感を与えないようになっているんだ」

御影 「アンフェア感?」

フジモリ 「超能力による殺人なら、「なんでもあり」になってしまうので、その殺人で使われた超能力や中身を最初から公開してしまう。今回の殺人事件では「ハイヒップ」という超催眠術が用いられているんだけど、「いつ」発現したのか、「どういう」超能力なのかが神麻の口から語られる。読者は、それを「誰が」「なんのために」使ったのか、という推理に専念できるというわけだ。話が進むにつれて「実はこの能力にはこういう力もあった!」とか、「実はこの能力は観測されない時間に使われていた!」とかいう後付けが出てこないんで、読者が(悪い意味で)「だまされた!」と感じない、ということだ」

御影 「アンフェア感は、伏線なしに事実が解明されたときに読者が感じる「怒り」なん?」

フジモリ 「そう受けとってもらっていいよ。超能力という1歩間違えれば「なんでもあり」になってしまう力をうまく消化してとり入れている、それだけでもこの作品は実験的かつおもしろいミステリィだと思うね」

御影 「でも、超能力やろぉ?なーんかずるい気がするわぁ」

フジモリ 「ならば、推理小説に出てくるギミック(小道具)だと思えばいい。「過度に発達した科学は魔法と区別がつかない」という言葉があるけど、例えば「テレパシー」というと胡散臭い(ように感じる)。しかし、「自身がものを考えるときにシナプスを通じて脳に電気信号を送る際、その電気信号を増幅し、特定の相手のシナプスに自身の考えたこととまったく同じ電気信号を伝える装置」による「通信機器」を用いた「伝達」だったら、なんとなく納得してしまうだろ?」

御影 「ま、まあ、その装置や仕組みにそれっぽい説明がされとったらな」

フジモリ 「それと一緒さ。超能力というから胡散臭くなるだけで(多くの人が「サイボーグ009」や「スタンド」をイメージしてると思うけど)、密室を作り出す機械、装置と考えればこの小説は非常にスマートなミステリィだとわかる。作者自身が「パズラー」と称しているように、この作品は最初から提示されている条件を使って謎を解く、パズルのようなものだ。一見食い合せが悪いように見えるが、アイスクリームの天ぷらのように意外なおいしさを見せている、と思ったね」

御影 「やっぱ食べもんで例えんのかい!」

フジモリ 「超能力をミステリィにとりこんでいるので一見異色な作品のように思えるが、実は直球ストレートな推理小説だ。しかも、このシリーズ、出てくるキャラクタも面白い」

御影 「天然ボケのチョーモンイン、神麻嗣子にお堅い警部能解、情けないけどその考え方には妙に共感してしまう推理作家の保科、などなどやな」

フジモリ 「悪く言えばマンガ的、良く言えばマンガ的なキャラクタたちだね」

御影 「同じこと言っとぉで」

フジモリ 「いやいや。これは似て非なるものなんだよ。一般的な認識として、「マンガ的」なキャラクタというのは「わかりやすい性格設定」「超現実的(現実ばなれしている、という意味)」という意味にとられ、マイナスイメージが強い。しかし、それは虚構の世界だから当たり前のことだし、現実の人間は一人一人が何冊分の本が書けるぐらい複雑で混沌とした存在だ。キャラクタを書く(あるいは描く)場合、個性を特化させた「わかりやすい性格設定」になってしまうのはやむを得ない事だ。そういう意味で、「幻惑密室」以降の「神麻嗣子シリーズ」の登場人物は「個性的」で「現実ばなれしている」ため、「マンガ的」に感じた。でも、それを補って余りあるほど「魅力的」なキャラクタたちのため、この「個性的」な性格が鼻につかない。良い意味で現実には存在しないキャラクタなんだよ。特に、神麻嗣子のかわいさはそっち方面の人ならずとも「かわいい」と思うに違いない」

御影 「「そっち」ってどっちや?」

フジモリ 「・・・。有明方面ぐらいかな」

御影 「・・・なんかいろいろな意味が込められとるような気がすんねんけど」

フジモリ 「少なくとも二つ以上。で、神麻たち魅力的な登場人物により、物語の面白さがいっそう増している、というわけだ。純粋にキャラクタものの小説と読んでも面白いんじゃないかな」

御影 「あんただけやろ」

フジモリ 「そうでもないと思うよ。実際、このシリーズ、イラストレータの水玉蛍之丞さんの絵もあって、非常に人気がある。ミステリィというと「初心者お断り」的雰囲気のする硬派なイメージもするけど、こういう小説もまた「ミステリィ」なんだな、と思ったよ」

御影 「ふーん」

フジモリ 「さらに追記するなら、「個性的」「魅力的」、そして「マンガ的」なキャラクタたちの存在が、超能力を用いた殺人事件という現実ばなれした事柄を扱う小説のなかでうまく機能している。これをハードボイルドな探偵が解いていくなら「超能力」という点だけ妙に浮いた印象を与えてしまうけど、神麻たちが事件を解決することによって違和感なく読者を作中の「世界」の中に引きこんでいる。木を隠すなら森と言うが、実にうまい設定だよ」

御影 「逆に言えば、この作品はキャラクタ小説と見せかけた本格的推理小説や、ゆうことやな」

フジモリ 「まあ、その「推理小説」という部分については次作「実況中死」のなかで説明したい(注:次作の感想はこのシリーズを読んでいる人向けのもので、ネタバレありのものになります)けど、とりあえず今回は未読者向けに、このシリーズの面白さを説明してみた。超能力とミステリィという一見相反する事柄をうまく扱っていると思うし、単純に「神麻さんかわいい!」と読んでも面白い小説だよ」

御影 「なんかあんたが言うとめっちゃいやらしく感じんねんけど」

フジモリ 「うるさい!」

御影 「・・・魅力的なキャラクタかぁ。あんたも、もっとうちらを魅力的に描けへんのか?」

フジモリ 「いくら筆を尽くしても、もとから魅力的でないキャラクタを魅力的には書けないぞ」

御影 「ムキーッ!なんやてぇ!フジモリのくせに生意気だぞ!」

フジモリ 「また古いセリフを・・・。突っ込む気も起きへんわ」

御影 「あんたが言うな!」



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