フジモリの脳内ラビリンス

〜a labyrinth in fujimori's brain〜

Nineteenth bookshelf
加納朋子『ななつのこ』



フジモリ 「今回は、加納朋子の「ななつのこ」を取り上げることにします」

御影 
「新世紀になって初めて読んだ本やけど…。あいかわらずやな」

フジモリ 「まあね。特に奇をてらおうとは思ってないし、このコーナは雑多であやふやすぎる。アイヨシは書評、フジモリのは感想とでも思っていただきたい」

御影 
「西之園萌絵風に・・・「書評と感想の違いって何?」」

フジモリ 「自分で西之園萌絵風って言うな。そうだね・・・。客観か主観の違いじゃない?比較的客観的に書かれたのが書評、主観的に書かれたのが感想。例えば、アイヨシの記事で言えば、今まで読んだ本の中から選び出して分析・考察を加えているのが書評、日記で読んだ印象をストレートに書いているのが感想だ。どちらも感想といえば感想なんだけど、より客観的にしたものを「書評」と言うんじゃないかな」

御影 
「んーで、その分類でいけば、あんたんは感想になるわけやな」

フジモリ 「本というのは読んだシチュエーションによって印象が大きく異なる。電車の中で流し読みした時と家でじっくり読んだときではその作品に対する印象がずいぶん違ってくる。同じように、本人の状態でその本に対する感想もずいぶん違ってくる。心がすさんだときに心あたたまる本を読んだらより感動するし、恋をしているときに恋愛小説を読んだらより主人公に共感する。料理と一緒で、「空腹に勝るソースなし」ってやつだね」

御影 
「あんたは常日頃から本を食事になぞらえてるもんなぁ」

フジモリ 「知識は栄養。良い本は何度も咀嚼。今世紀の感想も、料理のように、「どこがおいしかったのか」よりも、「こういうところがおいしいから食べてみない?」、という点をメインに進めていくことにしたい」

御影 
「ほんま?」

フジモリ 「ま、気まぐれなんでいきなり小難しい話をしたりするかもしれないけど、気合と勢いで読んで欲しい。で、その中で少しでも「読みたいな」と思う本が出てくれれば嬉しいな。未読者には興味を、既読者には共感を。これがフジモリの感想の目標だ」


御影 
「なんか、締めに入ってへん?」

フジモリ 「まさか。感想はこれからだよ」

御影 
「それに、あんたんは感想ゆーより、読んだ本をネタにして漫談してるゆーイメージがあんねんけど…」

フジモリ 「なにが漫談だ!ここでオチつけてどうする!感想いくぞ、感想!」

御影 
「へーい」

フジモリ 「さて、前置きが長くなってしまいましたが、今回読んだ加納朋子の「ななつのこ」の感想を。では、御影、あらすじを」

御影 
「はいな。「ファンレターとラブレターは勢いで出すものだ」と、絵本「ななつのこ」を読んだ短大生、入江駒子は作者の佐伯綾乃にファンレターを出す。んーで、ファンレターに駒子の周りで起きたちょっと不思議な出来事を書いたわけや。すると、「拝復」と作者から返事が届き、ファンレターの感想に加えて、その不思議な出来事に対する作者なりの推理が書かれていたんや。物語は駒子の日常に絵本「ななつのこ」の一話一話が挿入され、最後に「ななつのこ」の作者の手紙で終わる。「ななつのこ」という絵本自体も一つの謎解き話であり、7X2,計14個の謎解き話で展開される物語なわけや」

フジモリ 「7つの短編で物語が構成されているが、最後まで読むとそれがひとつのつながった物語であるということに気づく。よくできた小説だよ」

御影 
「・・・あれ?あんた、ここまでで1回も「ミステリィ」って言葉を使ってへんな?」

フジモリ 「そう!よくぞ気付いた!確かに、この物語、14個の話それぞれに「謎」も「伏線」も「探偵役」も「謎の解決」もある。日常起こりうるささやかな謎に対するミステリィ小説だといえなくもない」

御影 
「前回の感想でも取り上げた森博嗣の「工学部・水柿助教授の日常」や北村薫の「円紫師匠と私」シリーズみたいなもんやな」

フジモリ 「なにもミステリィとは孤島の密室で人が死ぬ話ばかりではない。ま、ミステリィの定義については「スレイヤーズ!」を題材に説明しているからそっちを参照していただくとして、この「ななつのこ」もそういった意味ではミステリィといえなくもない」

御影 
「なんか奥歯にものが挟まったような言い方やな」

フジモリ 「うん。やはりこういう日常の些細な謎に対する不思議を扱ったミステリィとしては、北村薫と比較してしまいがちなんだけど、比較してしまってはいけないと思ったわけだ」

御影 
「なんで?」

フジモリ 「謎が簡単すぎるから。ミステリィ好きならじっくり読んでいけば解答がわかるし、意外性のある解答というわけでもない。つまり、この物語の本質は、「謎と解答」には置かれていないんだ」

御影 
「なら、なんなん?」

フジモリ 「だからこそ、この小説はミステリィとして読んで欲しくないんだ。主人公、入江駒子の日常、そして謎に対するとらえ方、佐伯綾乃とのやり取り、そういったものがこの物語のメインであり、それを楽しむ小説なわけだ」

御影 
「ほな、北村薫作品とは根本的に違う、ゆーこと?」

フジモリ 「フジモリはそう思った。今はSFでもホラーでもサスペンスでもなんでもひとくくりに「ミステリー」としてしまうから、物語の本質が「謎」と「解決」にあると誤解してしまうけど、少なくとも「ななつのこ」はそうだなぁ・・・。純文学というか、単なる小説というか・・・。・・・そうだね、「童話」だと思って読んでほしい。文章は柔らかく、そして暖かい。読んだ後に、ふわりと幸せな気持ちがすること請け合いだよ」

御影 
「童話かぁ。ええ例えかもな」

フジモリ 「そういうわけで、この本はいわゆる「ミステリィファン」ではなく逆にそういうものに縁のない人、普段本を読まない人が読むといいんじゃいないかな。連作短編の形式をとっているからちょっとした時間に読めるし、絵本を読む感覚で楽しめる。読後感は清々しい。ここからミステリィに興味を持ったら北村薫を読んでもいい。ま、肩肘張らずに、とりあえず読んでみて下さいな。今流行りの「ヒーリング」だと思いねぇ」

御影 
「どこの人や、あんた。んーで、あんたも癒されたわけやな」

フジモリ 「癒された癒された。もうベホマをかけられたぐらいに」

御影 
「うんうん、そーやなぁ。あんた、心がすさみきってるもんなぁ」

フジモリ 「読む人が誤解を招くような言い方をするんじゃない!」



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