フジモリの脳内ラビリンス

〜a labyrinth in fujimori's brain〜

Eighteenth bookshelf
森博嗣『工学部・水柿助教授の日常』



フジモリ 「さて、21世紀最初の感想は森博嗣の「工学部水柿助教授の日常」をとりあげます」

御影 
「21世紀最初って・・・。読んだんは昨世紀やろ」

フジモリ 「う。ま、まあそうなんだが、やはり21世紀最初の作品だからフジモリが最も好きな作家の作品で始めたいという考えもあった」

御影 「嘘やろ」

フジモリ 「(無視して)では、あらすじから。ミステリィ作家であり工学部の助教授でもある森博嗣が、自らの日常を水柿助教授というキャラに代弁させる、私小説風作品だ」

御影 「・・・・・・よーわからへんねんけど」

フジモリ 「ま、「水柿助教授」とは言っているが、要は森博嗣自身の私小説だね。妻、スバル氏(作品内では須摩子さんとなっている)との馴れ初めとかのろけも入っている」

御影 「アイヨシも言っとったなぁ」

フジモリ 
「そういえばアイヨシは「森博嗣初の密室のない小説」って言ってたけど、まあ、言いたいことはわかるけど、微妙に違うかな(笑)」

御影 「『夏のレプリカ』は密室がなかったもんなぁ」

フジモリ 「それに、短編集も。連載されているものだったら「堕ちていくシリーズ」もだね。つまり、アイヨシのセリフをフォローすると、森博嗣初の「人が死なない」「書籍化された」「ミステリィ」小説、ってことになるね」

御影 「ミステリィなん?」

フジモリ 「そう。この小説の特徴は、ミステリィの形式をとっている、ということ。森博嗣(作品中では水柿)が昔体験した些細な「不思議」を軸に、物語が進められていく。こういった日常の不思議を軸にしたミステリィは北村薫という大御所がいるんだけど、森博嗣は別のアプローチから書いているんだ」

御影 「どんなんなん?」

フジモリ 「北村薫の作品、特に「円紫師匠と私」シリーズなどでは、日常における不思議に対し、その「解答」が物語の軸になっているのに対し、「水柿助教授」内ではその「仕組み」に重きがおかれているんだ。原因を伏せて現象だけが提示されたとき、その物事はミステリィになる、というのがこの作品の主題の一つだね」

御影 「?、よーわからへんねんけど、具体的にはどういうことなん?」

フジモリ 「そうだな・・・。例えば、昔テレビでやってたんだけど、とある古びた橋の橋げたに、十円玉大の顔のような物体(平面体)が多量に貼りつけられている、ということでニュースになったことがある」

御影 「顔のような物体?シールとかやのぉて?」

フジモリ 「うん。ある程度の硬度を持った物質。それに線のような目、鼻、口が刻まれたものが、橋げた一本一本にぺた、ぺた、ぺたと」

御影 
「粘土ちゃうん?」

フジモリ 「橋げたは雨風にさらされてるんだよ?それでもはがれることなく、こびりついているんだ」

御影 「うわ、なんか怖いなぁ」

フジモリ 「そうだね。実際、地元では心霊現象かとも騒がれたらしい。人面疽の物質版、とかね」

御影 「うう、そう言われれば信じてしまいそうや。・・・で、けっきょくなんやったん?」

フジモリ 「・・・ガムだったんだって」

御影 「はぁ?」

フジモリ 「だから、ガム。材質を分析したら、チューインガムが固まったものであることがわかったんだそうだ。つまり、誰かが噛んだガムをぺたりと橋げたに貼りつけ、爪で目、鼻、口を作る。ガムが固まると雨風にさらされても大丈夫なほどの耐久度と硬度を持つから、それを何個も何個も貼りつければ人面疽のできあがり、というわけだ」

御影 「なんや、それ!」

フジモリ 「な、「原因」を聞くとたいしたことないだろ?しかし、「現象」だけ聞くとそれがミステリィに変わる。そういったことを、森博嗣はミステリィの仕組みとして水柿助教授の目を通じて書いているんだ」

御影 「へぇ〜」

フジモリ 「そういう意味で、この作品も「ミステリィ小説」に分類される。もちろん、その「オチ」が明記されなかったり、あまり面白くないものもあるけど、森博嗣は常々「オチがある作品は面白くない」みたいなことを言っているんで、この作品もそれを反映してのことだと思われる」

御影 「犀川先生の「意味なしジョーク」みたいなもんやな」

フジモリ 「そうだね。あと、この作品での特徴として、水柿助教授の思考が非常にリアリティあるものとして書かれている」

御影 「どんなふうに?」

フジモリ 「奥さんである須摩子さんの発言に対し、思考を拡散させるという点。犀川先生も「幻惑の死と使途」でしてたけど、例えば、「1+1は?」と聞かれたときに、「そういえば、昔「1+1は田んぼの田」っていうなぞなぞがあったなぁ」「そもそも、なんでこんな質問をしてきたんだろう?」「1+1は3−1って答えても間違いじゃないよな」「でも、学校では1番シンプルな形で答えなきゃいけないんだよなぁ」「でも、問題には最も簡単な整数で答えよとか明記されていないってことは、わざとひねくれた答えを書いても良かったのかなぁ」「そもそも、なんでこんなこと考えてるんだろ?」「ああそうだ、1+1って聞かれたからだ」「とりあえず、無難に答えとこう」という思考があり、「2」と答える」

御影 「んな、あるかぁ?」

フジモリ 「フジモリはあるけど。普通、小説などではこういった部分は省かれて登場人物は会話をしている。「工学部水柿助教授の日常」ではその普段省かれている部分を書くことによって、本当の意味での「リアリティある小説」になっているんだ。人物が書けてある、とも言うね」

御影 
「ああ、ああ、よぉあるなぁ。主人公が普段と違う行動をしただけでも「こんなこと、主人公はしない!」って批判するやつ」

フジモリ 「そもそも、一定のポリシィに常に従って行動する人間なんていない。いつもは甘いものが好きな人が理由もなしに「甘いもの食べたくない」と言う、この理由のない行動が人間本来の姿であり、機械や人工知能にはできない「ランダムな思考、行動」というやつだ。思考の飛躍とも言うね」

御影 「確かに。マンガや小説なんかでは、登場人物はそれぞれのキャラを貫き通しとるもんなぁ」

フジモリ 「無口なキャラだって、突然しゃべりたくなる時だってあるし、そういうランダムな行動があって初めて「人物が書けている」と評されるんじゃないかな?もちろん、この発言自体は森博嗣の受け売りだけど、フジモリが常々思ってたことも事実」

御影 「そういう意味では、森博嗣の作品は非常にリアリティある人物描写、内面描写がされとぉな」

フジモリ 「ま、もともと人間なんてカオティックだからね。自分の性格を一つに特定しろ、という方が無理な注文だ」

御影 「ま、それはあんたの原稿読めばよくわかるわ。こんな風に人格同士で会話しているHPなんてそうそうないからなぁ」

フジモリ 「そうそう。それに、言葉遣いだって人格ごとに違うだろ?主人格(フジモリ)がたまに言葉遣いが変わるのも、言ってることがころころ変わるのも、はたまた誤字があるのも、全てはリアリティを追求してのことなんだ。わかった?」

御影 「嘘や、それは絶対嘘や(笑)」

フジモリ 「まあ、結論として、たけいやアイヨシと感想がかぶらないで良かった、ということだ」

御影 「オチになっとらんやろ!」

フジモリ 「だから、森博嗣も言っただろ。「オチがある作品は面白くない」って。今回はそれを狙ってみた」

御影 「嘘つくな!もぉえ〜わ!」



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