フジモリの脳内ラビリンス

〜a labyrinth in fujimori's brain〜

Tenth bookshelf
上遠野浩平『ぼくらは虚空に夜を視る』



フジモリ 「さて、この本棚もついに10冊目になった。今回とりあげるのは上遠野浩平(かどの・こうへい)の「ぼくらは虚空に夜を視る」だ」

御影 
「記念すべき10回目なんに、なんかぱっとせんな(笑)」

フジモリ 「それは失礼だろ。ま、ほんとは10回目に読む本は決まってたのだが、いかんせん長過ぎるので先にこっちを読み終えてしまったわけだ。それに次の作品はこってりした極上のステーキ1kgなんで、その前にパフェを2つぐらい食べて準備しとかないとね」

御影 「よくわからん例えやな」

フジモリ 「次の作品を見ればわかるさ。長いぞ。感想も当分先になる予定。
 で、今回の作品。前回読んだ「冥王と獣のダンス」と作者は同じだ。普通の高校生、工藤兵吾はある日突然、宇宙で戦争する自分の意識とシンクロする。なんでも戦争する自分の本来の精神が壊れてしまったため、工藤がいた「世界」から、工藤の意識を引っ張り出したのだそうだ。工藤がいた「世界」とは無限に続く宇宙の中の戦争の中で人間が狂わないように作られた安全弁である架空世界。つまり、もともと工藤がいた「世界」は本当の世界じゃなかったんだ」

御影 「マトリックス?」

フジモリ 「フジモリは藤崎竜のデビュー作「WORLDS」を思い出したけどね」

御影 「うわ、マニア。わかる人おらんで」

フジモリ 「ここ読む人だったら結構わかると思うんだけど。続き。工藤は宇宙で謎の敵「虚空牙」と戦いながら、もともといた「架空世界」での生活をする。そのなかで、現実世界と架空世界に住むそれぞれの敵と戦っていくわけだ」

御影 「?、あれ?「虚空牙」ってどっかで聞いたような・・・」

フジモリ 「前作「冥王と獣のダンス」に出てきたね。そういう意味では、前作とリンクしている」

御影 「ふーん。で、どやったん?」

フジモリ 「なかなか面白かった。どちらかといえば「ブギーポップ」に近い作品だね。高校生ぐらいの年代が漠然と感じる「現実のなかでの非現実感」がうまく表現されてる」

御影 「なにそれ?」

フジモリ 「自分がいる世界が現実じゃないんじゃないか、とふと思ってしまうこと。一種の現実逃避なんだけど、「毎日毎日同じことの繰り返し、これじゃ生きてる気がしないよぉ〜!」ってやつ」

御影 「ぅぉ兄ちゃ〜〜ん!!」

フジモリ 「だぁっ!テリードリーネタはいいからっ!なんのコーナーだよ、ここ」

御影 「あんたがふったんやろが!」

フジモリ 「続けます。ブギーポップのときもそうだったけど、大人になる前の猶予期間におけるさまざまな不安。それを「戦争」という架空世界とのリンク(作中では架空世界こそが「現実世界」なんだが)を使って書かれている。前作のような完全な架空世界ものよりも、こっちのような作品が上遠野浩平の本領が発揮されるね」

御影 「今回も恋の行方は不明やねんけど、そんなに怒らへんの?」

フジモリ 「今回は恋愛小説として読まなかったから、心の準備が出来てたのかな(笑)。あいかわらず虚無系の女の子は出てきたけどね」

御影 「(前回に懲りてアヤナミ系とは言わへんねんな)」

フジモリ 「まとめとしては、今回は単発ものとしてはうまくまとまっていたと思う。位置的に言えば、「ブギーポップ」と「冥王と獣のダンス」とをつなぐ作品。この作品も、ティーンエイジャに読んで欲しいな。もしティーンエイジャではなかったとしても、当時の気持ちに戻って読んで欲しい。多分に共感できる部分があるんじゃないかな」

御影 「今回はえらいあっさりやな。前回の辛口感想で懲りたん?」

フジモリ 「そういうわけでもないが。「冥王と獣のダンス」が消化不良だった分、今回はあまり期待しなかったから、いい意味で期待を裏切られ、楽しく読めた。「冥王と獣のダンス」は、「ブギーポップ」や「殺竜事件」が面白すぎたせいか、過剰に期待してしまったのかもしれない。前回も言ったけど、ライトノベルスの作家としてはかなり上位の作家だと思うからね」

御影 「そんなもんなん?」

フジモリ 「ま、上遠野だけに、過度な期待は禁物、ってことだね」

御影 「うわ、オヤジギャグ。あんたはこの作品、高校生の気持ちになっては読めへんわ」



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