| フジモリの脳内ラビリンス
〜a labyrinth in fujimori's brain〜 Eighth bookshelf 北村薫『ターン』 |
御影 「今回の感想は北村薫の『ターン』や。結構有名やから、昔読んだ人も結構多いんちゃうかな。それに、夏の「新潮文庫100冊」の中にはいっとったから、それをきっかけに読んだ人もおると思う。今回もうちの感想でお届けします。よろしゅう」 フジモリ 「・・・・・・。はっ!?あ、あれ?あれ?」 御影 「どしたん?」 フジモリ 「なんか、前に似たような状況があったもんで・・・」 御影 「気のせいやろ。では、作品についての説明を。『ターン』は北村薫の「時の3部作」の二つ目や。主人公、森真希は29歳の版画家。ある夏の午後、ダンプに衝突してまう。すると、自宅の座椅子でまどろみから目が覚めた自分がいた。事故の衝撃で、時の狭間に入ってもーたんや。自分以外誰もいない世界。そしてどんな一日を過ごしても、定時になったら一日前の座椅子にターンしてしまう。この「時の刑務所」での生活の中で、真希は生活していくわけや。自分の軌跡が一切残らない世界。これは、めっちゃきついで」 フジモリ 「「時の3部作」の2作目?前作は?・・・ああ〜っ!そういえば、前作は『スキップ』!俺、前回の感想のあと他の作品を読もうとしたんだけど、いつの間に『ターン』読んだんだ?しかも『スキップ』読んでから2日も経ってないぞ!」 御影 「まあまあ。気にせんと。『スキップ』読んでめっちゃ感動してんから、やっぱ連チャンで読んどかんと」 フジモリ 「(俺、そのうちこいつに人格とって替わられるんじゃないか?)」 御影 「んーで、感想やけど、『スキップ』もそうやったけど、この作品でも「時間」についての大切さを思い知らされるな。毎日を凡庸に生きることは、主人公が迷いこんだ時の刑務所におるんとか変わらへんもんな。そう思わへん?」 フジモリ 「(なんか曖昧のうちにうやむやにされている気が・・・)ま、まあ、時間って結局自身が感じる相対的なものだから、長いと感じるか短いと感じるかは人それぞれだ。この作品を読むと、この限られた「時間」というものがいかに貴重で、大切にしなければならないかということを思い知らされるね」 御影 「そーやろ?「時は金なり」とかゆーけど、時間なんて金以上に価値のあるものやからね」 フジモリ 「ただ、この作品にはそういった説教くささがなく、「時の刑務所」で暮らす真希を通じて、読むものが自然にそれを悟れるようになっている。北村作品共通の、「主人公のひたむきさ」によってね」 御影 「北村薫の作品って、全部に共通してるけど、めっちゃ爽やかで、読後感が清清しいな」 フジモリ 「ああ、それは北村作品には「悪意」の存在が稀有だからじゃないかな」 御影 「悪意?」 フジモリ 「普通の作品は、善という立場を際立たせるため、必ずといっていいほど「悪」の側に立つものが存在する。この場合、悪とは「意地が悪い」の「悪」だ。しかし、北村作品にはそれがない。前作『スキップ』も25年前から意識がとんだ主人公を助けるため、娘や旦那さんが協力してくれたし、周りの人はみんな「いい人」だった。そういう「悪」の存在のなさが、読後感の清清しさにつながるんだと思う」 御影 「せやけど、『ターン』では珍しく「悪」が登場しとったな」 フジモリ 「「悪」が出てこないからこそ、逆に「悪」が出てくると際立つ。その悪に主人公の立ち向かう姿を通して、読み手はより主人公にシンクロし、カタルシスを味わい、読後に人それぞれ何かを得るんじゃないかな。今回の「悪」は主人公の立場の対極に立つ者として登場したわけだし、「勧善懲悪」といった意味合いもない。悪が出たからといって、作品の「綺麗さ」は変わらないと思うよ」 御影 「せやな。後味が悪い作品って、再読する気おきへんもんな」 フジモリ 「あと、この作品の特徴はいきなり「二人称」で始まることだ。これは、結構戸惑うね。最後にはその「語り手」が誰だかわかるんだけど、それが誰なのか疑問に思った時点で作者の術中にはまっているわけだ」 御影 「今回もネタバレで話さへんの?」 フジモリ 「そうだね。この作品もやっぱり老若男女問わず一度は読んで欲しい作品だ。量は別として、人間に平等に与えられる「時間」について、考えさせられるいい機会になると思う」 御影 「あ、あれ?」 フジモリ 「どうした?」 御影 「なんか、あんたに仕切られてるような・・・」 フジモリ 「気のせいだろ。とにかく、時間というのは財産だ。浪費するのも有効に使うのもその持ち手にかかっている。それに気付くだけでも、日々の過ごし方が変わってくるんで、機会があったら読んで損はないと思います。そうだろ、御影?」 御影 「せやな」 フジモリ 「と、いうわけで、「時」をあつかった2作品、『スキップ』『ターン』の感想でした。次回はうってかわってライトなファンタジィものを読む予定です。ほら、御影、挨拶」 御影 「さよおなら〜」 フジモリ 「では、また」 御影 「・・・(やっぱ、こいつに仕切られとる。『スキップ』の次に速攻で『ターン』読んだんも、ほんまはこいつが読みたいからやったんちゃうんか?)」 |