フジモリの脳内ラビリンス

〜a labyrinth in fujimori's brain〜

Seventh bookshelf
北村薫『スキップ』



御影 「今回の感想は北村薫の『スキップ』や。結構有名やから、昔読んだ人も結構多いんちゃうかな。それに、夏の「新潮文庫100冊」の中にはいっとったから、それをきっかけに読んだ人もおると思う。今回はうちの感想でお届けします。よろしゅう」

フジモリ 「えらい気合い入ってるね」

御影「せやって、めっちゃ感動してんもん。今年読んだ本のベスト3に入るんちゃうかな。今回だけはフジモリがなんと言おーと、うちに仕切らせてもらうで」

フジモリ 「ま、たまにはいいでしょう。では、あらすじを簡単に。
 昭和40年代の初め、「わたし」一之瀬真理子(17歳)は雨で学園祭が中止になった夕方、一人でレコードを聞きながら眠りについた。目が覚めるとそこは25年後。桜木真理子となっていた「わたし」(42歳)は、心は17歳のまま、心以外のものが25年後に「スキップ」してしまった、という物語だ」

御影「最初は、カフカの『変身』に代表される不条理ものかな、なんて思てんけど、「わたし」の心情がリアルで、25年後(つまり現代)という異世界に来てしまった戸惑いがリアリティあふれて書かれておる。25年後にスキップしてしまったという「現実」を心で否定しながらもそれに適応するために前向きに生きていく、主人公のひたむきさが心にしみる物語やった」

フジモリ 「実際、そんなことはないと思うけどもし自分が主人公と同じ立場だったらどうするか、と思うと、この主人公の行動は一つの「答え」であり、その前向きさは賞賛できるね」

御影「うちの感想をとるな!・・・まあ、ほんまそのとおりやねんけどね。まず、この物語を支える「リアリティ」が絶品。25年前の文化事情が詳しく書かれていて、「あなたたちが生まれていない頃、こんなことがあったのよ」っちゅう主人公の心情が手にとるようにわかり、共感できる。これは、「戦国自衛隊」なんかと同じ一種のパラレルワールドストーリィやからな」

フジモリ 「そりゃ、いきなりテレビがリモコンで動いてカラー画像だったらびっくりするわな」

御影「その異世界に対する主人公の「戸惑い」。現代にいるうちらも、この心情にすんなりとシンクロできるところが見事やな。そして、北村薫作品に共通している、主人公の「ひたむきさ」がある」

フジモリ 「「円紫師匠と私」シリーズなんかもそうだね」

御影「いきなりこんな状況になっても、パニックにならず、現状を把握し、それに立ち向かう。決して後ろ向きにならない。・・・ちゃうな。後ろを向かないように歯を食いしばる。この純粋なひたむきさとけなげさが、うちの心を打ったわけや」

フジモリ 「この本は、「この先どうなるんだろう?」というストーリィへの興味ではなく、読者が主人公一之瀬真理子と同化し、読み進んでいく、という感じだね」

御影「そうやな。んで、うちらもシンクロした一之瀬真理子からその「ひたむきさ」を受け取るわけや。読後感はすがすがしく、明日への活力をもらった気がしたわ。文中の主人公の独白、

 昨日という日があったらしい。明日という日があるらしい。だが、わたしには今がある。

ちゅうんは日々を凡庸に生きるうちらにとって「時間とはなにか」を考えさせられる名台詞や。いつも毎日変化なく時間を浪費しとる人にとっては耳が痛いやな」

フジモリ 「そうそう。これは受け売りなんだけど、子供の頃に比べて、歳を取ると毎日あっという間にすぎるように感じるだろ?どうしてだと思う?」

御影「????わからへん」

フジモリ 「たとえば5歳の子供にとっては、1年っていうのは人生の5分の1なんだ。でも、25歳の人にとっては1年は25分の1でしかない。歳をとって時間を積み重ねれば積み重ねるほど、区切られた「絶対的な時間という単位」は自身が感じる「相対的な時間」における比率が下がり、体感的に短く感じてしまうんだってさ」

御影「確かに、その通りやな。「だからこそ時間を大事にしよう!」なんて説教ぶるつもりはないねんけど、この本を読んでひたむきさを受け取り、今を大事に生きられる活力になれば幸いやな」

フジモリ 「「新潮文庫夏の100冊」にも入ってたけど、この本は学生(特に高校生)の人が読んでもいいと思うし、過ぎ去った時間を見つめなおすために大人の人が読んでもいいと思う。未読のあらゆる人にお薦めする本だと思うよ。読んで、「何か」を感じとってほしい。今回は、これにつきるね」

御影「ああ〜。言葉っちゅうのは不便やな。こんなんやったらうちの感動の100分の1も伝わらへんな〜。とにかく、読んでぇな」

フジモリ 「どうだ?感想って難しいだろう?」

御影「ほんまやわ。せやけど、今回うちに感想語らせてくれてありがとぉな」

フジモリ 「お?どうした?この本でお前の人格もひたむきさが身についたみたいじゃないか。うんうん。いいことだ」

御影「(ニヤリ)」

フジモリ 「?・・・さて、次はなにを読もうかな〜。そろそろ、J・ヴェルヌにとりかかろうかな〜」

 含みを持たせて次回の感想に続く。



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