フジモリの脳内ラビリンス

〜a labyrinth in fujimori's brain〜

Second bookshelf(ネタバレ感想)
『スレイヤーズ!』ってミステリィ!


註!
今回の書評には内容に関するネタバレがあります。未読の方はご注意ください。


<はじめに>


フジモリ 「さて、シリーズものの小説の考察をする<literature's room>。今回は神坂一の「スレイヤーズ!」シリーズをとりあげてみたい」

御影 
「それはえーねんけど、今回のタイトルで言っとぉ「ミステリィ」ってどういうことなん?「スレイヤーズ」シリーズはミステリィやのおて、ファンタジィやろ」

フジモリ 「そこだ。今現在、ミステリ、ミステリー、ミステリィと呼ばれる小説のジャンルがあるけど、非常に曖昧だ。この3種類の使い分けについてはアイヨシが説明していたんでおいておくけど、いわゆる「ミステリー小説」というのは「探偵小説」と同義語にされているようなイメージをうける。ここではフジモリなりの「ミステリィ」論を述べ、その視点から「スレイヤーズ!」シリーズの感想を言ってみようと思う」

御影 
「ふーん。ちゃんと考えてんねんな。タイトルは早々にあがっとぉのになかなか原稿が上がらへんかったから、てっきり「インパクトのあるタイトルをつけたはいいけど、内容は全く考えてない!」とでも言うんかと思ってんけど」

フジモリ 「ぎく」


<「スレイヤーズ!」あらすじ>

御影 「なんや、今の「ぎく」ゆーのは」

フジモリ 「さて、まずは「スレイヤーズ!」シリーズのあらすじを説明したい。この小説、アニメ化や映画化、ゲーム化などされているから、そっち系の人はまず知っているだろう」

御影 「どっちやねん。この作品、2部構成になってんねんな」

フジモリ 「そう。主人公の魔法使いリナ・インバースが相棒のガウリィ・ガブリエフとともに魔王ルビーアイ「シャブラニグドゥ」の一部を禁呪を使って倒したことからこの物語は始まる。この禁呪、無を呼び出す「ギガスレイブ」という呪文はともすれば世界を破壊してしまうだけの力を持っている。魔王の腹心たちはリナにこの呪文を使わせ世界を滅ぼせようと、手下である魔族を使役して攻撃を仕掛ける。ほぼ1冊完結形式で、RPGのように話が進んで行くこの小説は非常に読みやすく、面白い。特に、シリアスな戦闘シーンとその間に入る掛け合い漫才風ギャグシーンのメリハリが絶妙だ」

御影 「この作品、魔法の定義が独特やな」

フジモリ 「そう。この世界の魔法とは、「魔王やその腹心から力を借りて超常的な現象を生み出すこと」だ。魔の力を利用するんで、例えば雑魚の魔族には上司の力を借りてるんで魔法が効く。しかし、獣王「ゼラス・メタリオム」の力を借りた魔法では獣王を倒すことは出来ないし、もちろんその上司の魔王「シャブラニグドゥ」にも効かない。自分を倒すために自分の力を貸してくれと言っているようなものだからね」

御影 「ま、そこが最後の伏線になったわけやねんけど」

フジモリ 「まあ、その話はあとで。第2部は、第1部で倒された魔王の腹心以外の腹心が(ややこしいな)、各地に封印された魔王の分身を蘇らせようとする話。魔王は昔神様と戦ったときにその体を7つに分かたれた」

御影 「オルゴ・デミーラみたいやな」

フジモリ 「シャブラニグドゥはあんなに弱くない。神様(というか竜)が4つに分けた自分の体を人間に宿らせたように、魔王もまた7つの分身を人の体に宿らせた。第一部第一巻でリナたちが倒したのもこの一人。もちろん全てが一度にこの世界に存在するわけではなく、宿った人間が生まれるのには時間差があるし、宿られた本人が気づかないケースもある。その「自身が魔王である」ことに気づいていない魔王(の一部)を覚醒させるため、腹心たちは大規模な戦争(降魔戦争)を起こす。リナたちはその戦いに巻き込まれ、腹心やその手下を新たに出遭った仲間、ルークとミリーナとともに倒していく」

御影 「せやけど、魔王は復活してまうねんな」

フジモリ 「そう。復活した摩王はかつてともに戦った仲間、ルーク。リナとガウリィは「戦うか、戦わずに世界が滅びるか」の選択を迫られる」

御影 「んーで、最後はリナが魔王を倒すわけやな」

フジモリ 「ニ体の魔王を倒した二人は「デモンスレイヤーズ」と呼ばれる。そして、二人の道中は続く、というかたちでこの作品は完結する」

御影 「ま、この作品らしい終わり方やな」

フジモリ 「うん。じつは最終巻の前巻で「この話、どうやって終わらせるつもりだ」なんて思ったのだが、まあ納得できる終わり方だった。とりあえず、「スレイヤーズ!」の話の流れはこんな感じだ」

<「スレイヤーズ!」の感想、その1>

フジモリ 「この作品の大きな特徴は、しょっぱな、第一巻で主人公リナ・インバースが最強の敵を最強の呪文で倒してしまうことだ」

御影 「DISC1始めて1時間ぐらいでオルゴ・デミーラをマダンテで倒してしまうようなもんやね」

フジモリ 「そんな感じ。普通は始めでそんな派手な展開になると強さのインフレで話が破綻してしまうけど、その呪文を「禁呪」とし、使えなくしたことがうまい。それによって、その後出てくる「明らかに魔王より弱いボスキャラ」を倒すのも苦労するからね」

御影 「ドラクエ3でいうバラモスみたいなもん?」

フジモリ 「そうだね。しかし、そのバラモスクラス、あるいはその手下の、そうだな・・・やまたのおろちクラスのボスキャラ(魔族)の強さの描写もうまく、一度は魔王を倒した主人公だが「ほんとに勝てるのかな」と読者に不安を抱かせることに成功している。RPGのように主人公が次第に成長し、強い武器や呪文を手に入れていく過程も楽しく、ティーンエイジャー向けの小説としてはかなり上位の部類に入る。外伝も含めて30冊近くシリーズが続いたのもこの作品の人気を証明しているね」

御影 「で、なんでこの小説がミステリィなん?」

フジモリ 「・・・・・・」

御影 「「・・・・・・」ってなんやねん!考えてあるんちゃうんかい!」

フジモリ 「ひらめいた!」

御影 「ひ、ひらめいた!?」

フジモリ 「い、いや。では、なぜこの小説がミステリィなのか、説明していこう」

御影 「ふ、不安や・・・」


<ミステリィとは、何ぞや?>

フジモリ 「さて、御影はミステリィってなんだと思う?」

御影 
「なんや、いきなり。・・・そうやな・・・。どっかの離れ小島に閉じ込められた主人公たち。密室で次々と死んでいく仲間!犯人はこの中にいる!名探偵はこの謎を解けるのか!・・・てな感じかな」

フジモリ 「マンガの読みすぎ(笑)。確かに、そういう密室殺人ものがミステリィの一つというのも事実。名探偵が出てくる小説、いわゆる探偵小説がミステリィといわれているのも事実。でも、それだけかな?」

御影 「?」

フジモリ 「ひとつひとつ解体していこう。まず、殺人。殺人があればミステリィかな?」

御影 「まあ、殺人だけやのぉて、誘拐やら盗みやらもあるわな」

フジモリ 「そうだね。殺人だけじゃない。いわゆる「犯罪」が多く取り扱われているのがミステリィの特徴だ。しかし、それだと「犯罪小説」だ。ミステリィじゃない。それに、犯罪以外にもミステリィと呼ばれる小説はあるぞ。例えば北村薫の「空飛ぶ馬」。保育園に寄付した大きな馬の像がある夜突然消えてしまい、次の日には元に戻っていた、という話だ」

御影 「・・・謎やなぁ」

フジモリ 「その通り!ミステリィとは本来、「謎」という意味。単なる殺人じゃあミステリィにならない。「なぜ」殺したのか、「どうやって」殺したのか、そういう「謎」を解くのがミステリィなんだ」

御影 「その「謎」はなんでもかまわへんの?」

フジモリ 「そう。そしてミステリィにはその謎を解く人物が必要(いや、べつに人じゃなくてもいいけど)。いわゆる「探偵役」だ。これはわかるね」

御影 「古くはホームズ、新しくは京極堂、ゆう役回りの人たちやな」

フジモリ 「そう。彼らが謎を解く前に、その謎が普通に考えては解けないことを強調するいわゆる「ワトソン役」もいるね」

御影 「探偵をひきだたせるあほな警部みたいなもんやな」

フジモリ 「整理しよう。「ミステリィ」とは、通常では起こりえない、あるいは解決方法がわからない事象が存在する。これが「謎」だ。そしてそれを解決役が解いていく。「謎解き」が物語の軸となる物語、これが「ミステリィ」だとフジモリは定義する」

御影 「えらい単純やな」

フジモリ 「大筋はね。そしてそのギミックとして、謎を解けないことによって探偵役が謎を解いたときのカタルシスを増加させるワトソン役がいたり、謎を解く過程で「伏線」というものが存在する」

御影 「伏線?」

フジモリ 「ただ探偵が突然事件を解決しても読者は納得しない。謎の解決には、「根拠」が必要だ。「Aである。なぜなればBだからだ」というやつだ。そしてその「B」はその時点までに読者に提示されている。例えば殺人事件の際、探偵役が「犯人は2丁目の山田さんだ!なぜなら、山田さんは被害者の隠し子だからだ!」と言ったとき、謎を解く鍵は山田さんが隠し子であるということ。それを突然言ったら読者は「なんだそれは!」と怒り狂うことだろう。俗に言う、「アンフェア」というやつだ。この場合、解決までに読者にそれとなく山田さんが隠し子であることを匂わせなければならない。被害者と出身地が同じだとか、被害者を知らないと言っていたのに被害者の名前を漢字で知っていた、とかね。これがいわゆる「伏線」だ。これを巧みに配置することによって読者は「ああ、そうだったのか」と納得し、カタルシスを得る。謎が不思議であればあるほどそれが解けた時の爽快感は大きいけど、それは読者にも納得できるかたちで解決されなければならないんだ」

御影 「難しいねんな」

フジモリ 「ミステリィに必要なものは「謎」、「伏線」、「探偵役(解決役)」の3つだ。「解決役による解決」は必須ではない。読者に解決が提示されないミステリィもあるからね」

御影 「まあ、そこまでは理解できた。んで、なんで「スレイヤーズ!」がミステリィなん?」


<「スレイヤーズ!」って、ミステリィ!>

フジモリ 「そこで、話が戻るわけだ。今まで説明した、このミステリィの定義の要素、「スレイヤーズ!」シリーズにぴったり当てはまるんだ」

御影 「ほんま?」

フジモリ 「ほんまほんま。まず、「謎」。これは、「敵を倒せるのか」ということ。通常の手段を用いては倒せない敵。「スレイヤーズ!」とRPGが違うのはこの点だ。ドラクエだったらボスにHPがあってそれをどんな手段でもいいから削っていけば倒せるけど、この小説はそうはいかない。通常では起こりえない、あるいは解決方法がわからない事象を「謎」と定義したけど、その前提でいけば「通常の手段では倒せない敵」というのは「謎」として定義できる」

御影 「まあ、そうやな」

フジモリ 「それを、主人公リナ・インバースが倒す。これが「解決」だ。通常の手段によって倒せない敵を倒すことによって読者はカタルシスを得るわけだ」

御影 「リナが「探偵役」なん?」

フジモリ 「そう。それに、ボスが通常の手段によって倒せないことを強調するために、ガウリィや仲間たちがやられていく。これは、形こそ違えど物語の「ワトソン役」と言えないかな」

御影 「言えるかぁ?」

フジモリ 「それに「伏線」もあるぞ。例えば3巻、「サイラーグの妖魔」。ボスである魔族との戦いの前に、「回復呪文は体の回復力を活性化させ、治療する」という説明があり、物語の舞台となる街に「負の力を吸収し成長する樹」が出てくる。そして「その樹から生まれた剣」というのが登場する。リナはボスである魔族を「剣」を用いて「樹」に串差しにして樹と魔族を一体化させ、樹に「回復呪文」をかけさせる。樹は回復力が強まり養分である「負の力」を吸収しようとし、串差しにされた魔族から負の力を吸い取る。そうやって、リナは魔族を倒したんだ。伏線の登場、倒せないボスという「謎」、それを解決する「解決役」の存在。どうだ、「スレイヤーズ!」って、ミステリィでしょ」

御影 「なんかだまされとるよぉな・・・」

フジモリ 「まだあるぞ。第2部ではそれまでの仲間、ルークが最後に魔王として敵になるわけだけど、その伏線としてその前までの巻で「魔族の体で出来た剣を握っても無事」とか「人間全部を憎みたくなるような事件(ミリーナの死)」とかいうことがその仲間に身に降りかかっている。惜しむらくは魔王「ルビーアイ」の証である「赤い体の一部」をそれとなくちらつかせてほしかったんだけど、まあ重箱の隅をつつくようなもの。何巻にも渡って伏線が登場し、最後に魔王の力を借りた呪文を浴びせ、「魔王は自らの滅びを欲していた」という解決方法で魔王を倒す。これは第一巻の魔法の仕組みの説明の際に言った「魔王に魔法を使うのは、自分を倒すために自分の力を貸してくれと言っているようなもの」というのが伏線になっている。まあ、あとづけかもしれないけど、こうしてみるとスレイヤーズも立派な「ミステリィ」だろ?」

御影 「でも、せやったら「ジョジョの奇妙な冒険」も「ミステリィ」になるんちゃうん?ジョジョも敵を根性や努力でなく頭を使って倒すし」

フジモリ 「あれは「敵を倒すこと」が物語の軸になってないだろ?敵との戦いはあくまで「過程」であって「目的」ではない。ただ、敵との戦いだけを取り出したらその部分は立派な「ミステリィ」だと思うよ」

御影 「そんなもんなん?」

フジモリ 「そんなもんなの」


<「スレイヤーズ!」の感想、その2>

フジモリ 「こうやって「スレイヤーズ!」をミステリィという観点から見るとまた別のおもしろさが出てくる。世界を滅ぼしかねない最強の呪文を持ちながらもそれを使うことの出来ない主人公。容赦なく襲ってくる敵をいかにして倒すか、まあ、これを物語の軸というのは極論だけど、物語の面白さを形成していることは確か。単に根性や友情パワーで倒すより、遥かに物語に厚みが増す。そのための伏線の貼り方も絶妙で、読者に敵を倒すカタルシスと謎を解くカタルシスを同時に与える。もちろん、合間に入るボケツッコミの漫才チックなやりとりなども面白い。様々な視点から楽しめる作品として仕上がってるんじゃないかな」

御影 「えらいべたぼめやな。ライトファンタジーなんに」

フジモリ 「小説の作風と質は別物だよ。純小説で面白くないものもたくさんあるし、少年少女向け小説、あるいはマンガでも質の高いものはたくさんある。大切なのは、「何を伝えるか」じゃなくて「どうやって伝えるか」だ。テーマの重さと小説の質は比例しない。「スレイヤーズ!」は。エンタテイメントとして1級の小説であり、また「ミステリィ」としてもよくできた小説だ、というのが今回の感想だな」

御影 「うまくまとめよったな」

フジモリ 「まあね。今回は一風変わった作品感想にしたけど、どうだった」

御影 「ま、そういう観点から読めば「スレイヤーズ!」シリーズの新たな面白さを発見できそうで、よかったんちゃうかな」

フジモリ 「えへん」

御影 「とてもアドリブで書いていったとは思えんぐらいや」

フジモリ 「え?な、なんのことかな?」

御影 「途中「ひらめいた!」ゆーとったやろ!」

フジモリ 「そう、それが「伏線」だ」

御影 「ややこいボケすな!」


<参考文献>

第1部
「スレイヤーズ!」
「アトラスの魔道士」
「サイラーグの妖魔」
「聖王都動乱」
「白銀の魔獣」
「ヴェゼンディの闇」
「魔竜王の挑戦」
「死霊都市の王」

第2部
「ベゼルドの妖剣 」
「ソラリアの謀略 」
「クリムゾンの妄執」
「覇軍の策動」
「降魔への道標」
「セレンティアの憎悪」
「デモン・スレイヤーズ! 」



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